独自の審美眼と洞察力を持ち、各分野で活躍するスペシャリストを毎月お迎えして、センスの正体について探っていく連載「男のセンス学」。第5回は応用心理士の藤田尚弓さんが登場。心理学の観点から見たセンスのいい会話の秘訣を伺いました。
仕事やプライベートで初対面の人と会話をする機会は意外と多いものです。特にゴルフをする方は、コンペや友人の紹介で新しい人とラウンドしたり、3人のグループに一人参加のメンバーが加わるなど、初対面の方と1日を過ごすことも少なくありません。そうした場面で「無言も失礼かな」と気を遣い、なにか話しかけないといけないと感じる人は多いでしょう。よく知らない人に話しかける時に使いがちなパターンとして、次のような例があります。
① 「今日は晴れてよかったですね」といった共感系
② 「ここのコースはよく来られるんですか」といった質問系
質問は共感系の話題よりも相手が答えやすく、会話が続きやすいため、つい多用しがちです。そこで気をつけたいのが「質問の仕方」です。ラウンドを和やかなに楽しむために話しかけたつもりが、相手を困らせてしまうこともあるのです。
あなたは大丈夫?
ラウンド中の質問力 チェックリスト
□ よく行くゴルフ場の名前を聞く
□ 職業について具体的な質問をする
□ 乗っている車の名前を聞く
□ 朝、ハンデや平均スコアをストレートに聞く
□ 相手から聞かれないうちに家族について質問する
3つ以上当てはまった人は、質問の仕方をちょっと変えてみるといいかもしれません。簡単にできる方法をご紹介します。
質問の仕方でセンスがバレる!?
初対面の人との会話を盛り上げる秘訣とは
初対面の方との会話をスムーズにするコツとして、「ぼかし」を使うことをおすすめします。例えば「普段よく行くゴルフ場はどこですか?」という質問を、「普段ゴルフはどちら方面に行くことが多いですか?」と少しあいまいにしてみるのです。気に入っているゴルフ場があれば教えてくれるでしょうし、あまり言いたくない場合でも「千葉方面です」など、答えやすくなります。
職業についても、付き合いが浅い人に具体的なことを話したくないという方もいます。その場合は「何系のお仕事をしていますか?」という感じにぼかすのがよいでしょう。ちなみに筆者は銀座でホステスとして働いていた時は「飲食です」と伝えていましたし、警察関係のお仕事をしていた時には「役所関係です」とぼかして伝えるのが習慣になっていました。職業についてハッキリ言えない人や言いたくない人もいますので、そんな人でも答えやすくする「ぼかし」のテクニックを覚えておくとスマートです。
質問ばかりだと取り調べのようになってしまうことがあります。ぼかした質問に慣れたら、先に自分の情報を伝えてから質問するというテクニックもあわせて使ってみてください。例えば、乗っている車の話題であれば「僕は子どもが小さいので今はワンボックスカーに乗っていますが、〇〇さんはどんなタイプの車に乗っていますか?」という感じはいかがでしょう。まず自分の情報を開示することで、相手は質問に答えやすくなります。自慢の車であればそのものズバリを言ってくれるでしょうし、「セダン系です」などぼかして答えることもできます。「今は」というひとことを入れると、人に言いたくなるような車に乗っていたことがある人は、過去に乗ったことのある車について話すこともできるので会話が続きやすくなります。
応用編
応用編として、ズラす質問テクニックもご紹介しておきます。例えば「平均スコアはどのくらいですか?」という質問だと、あまりゴルフが上手くない人は気が引けるかも知れませんし、うっかり調子がいいときのスコアを言ってしまった人がラウンド中に苦戦して気まずくなってしまうこともあるかもしれません。スコアに関する話題は、ハンデや平均スコアではなく、ちょっとずらして「これまでのベストスコアはいくつですか?」と聞いてみるのはいかがでしょうか。これならその日に調子が悪かった人も気まずくなることはありません。
質問力のセンスの鍵は「想像力」です。質問をする前に、相手が気まずい思いをしないかまず 想像してみましょう。たとえば、家族構成など「この話題は大丈夫かな?」と迷うような話題は、相手から聞かれるまで触れないようにすると安心です。
ゴルフシーズン真っ盛り。踏み込み過ぎない質問テクニックで、会話もラウンドも楽しんでください。
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藤田尚弓
認知心理学領域でコミュニケーションの研究を行うコミュニケーションコンサルタント。警察から銀座クラブを経て、コミュニケーションデザインを行う株式会社アップウェブ代表取締役に。異色の経歴に基づく硬軟織り交ぜたコミュニケーションの専門家として、テレビでの解説、企業での監修・研修・講演などの実績多数。著書に「いい人間関係は敬語のくずし方で決まる」(青春出版社)「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)などがある。ゴルフ歴は26年、ベストスコアは88。
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Illustration : Masashi Ashikari
Edit : Yu Sakamoto