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背筋の伸びる街で“猫背”になれる場所 有楽町に潜む路地裏公園

人や車の行き交う目抜き通りから伸びる一本のわき道。不意の出会いに心を引かれ、思わず“道を曲がった”経験はあるだろうか? 喧騒を離れ、見知らぬ道を歩いていると、なんだか異世界探訪でもしているような気持ちになる。首都「東京」の街をぶらぶらと散歩すると、どんな出会いがあるのか。今回は東京駅で電車を降りた。(BRUDER編集部・合田拓斗)

有楽町「Slit Park YURAKUCHO」

東京駅を初めて訪れてから10年になる。高校の社会科の先生に「人生経験」として裁判傍聴を勧められ、慣れない電車を乗り継いでやって来たのだった。

窃盗と薬物所持の公判を傍聴し、時間が余ったので少し散歩をした。地方裁判所を出て、授業で習ったばかりの桜田門を見、皇居を回って東京駅へ。すれ違う大人はみんなスーツを着て、キビキビと早足だった。道中にコンビニやチェーン店はなく、自動販売機すら見当たらない。丸刈りにシャツ姿の自分は場違いだった。

無意識に、背筋が伸びた。

昔から、気づけば背中がぐるっと丸くなる。「姿勢が悪い」とよく怒られてきた。自分の後ろ姿は無気力な老猫みたいだろうと思う。しかし、そんなわたしでも、有楽町を訪れるといつも目が覚めたような気持ちになる。

歩いているだけで身の引き締まる思いのする街だ。ガラス張りの建物が行儀の良い子どもたちのように整列し、丁寧に刈られた草木が空気に品格を与える。まるで街そのものが趣味のいいジャケットを着て、洒落たネクタイをしているみたいに思える。

10年経っても、その印象は変わらない。平日の昼間、東京駅周辺はオフィスワーカーでにぎわっていた。いわゆる繁華街とは違う。建物や車の間隔にゆとりがあり、けばけばしさは微塵もない。仲通りでは話し声がささやくように響いていた。皇居にはツアーの外国人観光客がいて、写真を撮る列がまっすぐに伸びている。

帝国劇場で公演中の作品を確認し、駅に戻るところで気になる路地を見つけた。ビルのあいだに鬱蒼と草木が茂り、先が見えなくなっている。東京国際フォーラムがある大通りとの対比が面白い。

突き出すように生え渡った緑を抜けると、小ぢんまりとしたL字型のスペースがあった。“都市のすき間を公園化する”というコンセプトで2022年に開業した「Slit Park YURAKUCHO(スリット パーク ユウラクチョウ)」。細長い通りにカフェと日替わりのキッチンカーが並び、奥にはWi-Fiが利用できるコワーキングスペースがある。

「作りこみ過ぎない、というのがデザインの特徴です」と公園を運営する東邦レオ株式会社の高橋利世子さんは話す。“見られること”が前提にある皇居や仲通りの草木とは対照的に、自然に近い形を重視した。丸太や石でできたテーブルと椅子を配置し、看板などには目に優しいグリーンを使用。公園を象徴する段々になったベンチには、気軽に座りたくなるラフさがある。

「自然の気持ち良さを都会で感じられる。狭いですけど、ビルの間に空がくっきりみえるんですよ」。風通しのいい環境でパソコンを開けば、次のアイデアが浮かぶかもしれない。

キッチンカー「wick(ウイック)」で提供するコーヒーも、“長居”にはぴったりだ。豆を一つずつ取り除く「ハンドピック」という手法を用いており、飲み始めは濃厚な味わいで、冷めると一気にフルーティになる。

共同で公園を運営する株式会社SpAcEの小林里央さんは、以前まで丸の内・有楽町エリアにはなかなか足を運べなかったという。「洗練されている、かっこいい人たちが集まるイメージが強かったんです。でもこの公園ができて、『出会いの森』として幅広い世代の人が集まるようになった。ラフな服装もよく見ますね。居心地が良いなって思います」。街の品を保ちつつ、ありのままの自分でいられる場所になった。

インタビューを終えてから、試しに仕事をしてみた。1時間ほど作業して、ふと、いつもの悪癖が出ているのに気がつく。

やっぱり猫背が落ち着くのだ。

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Edit & Text & Photo : Hiroto Goda

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