いよいよ夏祭りの季節が到来します。童心に帰って射的や金魚すくいに夢中になったり、屋台のグルメを満喫するのも良いですが、今年の夏は子どもの頃とは違った体験をしてみてはいかがでしょうか? 「地域と風土」をテーマに日本各地の祭りを取材してきた大石始さんが“大人ならでは”の楽しみ方を提案します。
「祇園祭」(京都市)/7月1日(月)~31日(水)※前祭山鉾巡行は17日(水)、後祭山鉾巡行は24日(水)
もしも海外に住む友人から「夏の日本でひとつだけ祭りに行くとすれば、どれがいい?」と聞かれたら、僕は京都の祇園祭を推薦するだろう。その歴史、スケール、全国各地への影響力を考えると、祇園祭はやはり日本を代表する祭りといえるからだ。
祇園祭は全国に2300ある祇園社の総本社、八坂神社の祭礼だ。7月1日の「吉符入り(きっぷいり)」に始まり、31日の「疫神社夏越祭(えきじんじゃなごしさい)」で幕を閉じるまでの1カ月間、さまざまな神事や行事が行われる。なかでもクライマックスとなるのは色鮮やかな山鉾(やまほこ)が行き交う山鉾巡行だ。数百年前のゴブラン織や西陣織の前懸(まえかけ)をした山鉾もあり、「動く美術館」とも呼ばれる。
山鉾巡行の3日前にいわば前夜祭として行われる「宵山(よいやま)」もお勧めしたい。祇園囃子(ぎおんばやし)が鳴り響く中、山鉾につるされた駒形提灯(こまがたちょうちん)に明かりが灯り、幻想的な京都の夜をしっとり楽しむことができる。山鉾を彩る装飾品を間近でじっくりと鑑賞堪能できるものこの日ならではだ。山鉾巡行の一日だけでなく数日間京都に滞在し、普段とは違う京都をじっくり堪能したいものである。
「五所川原立佞武多」(青森県五所川原市)/8月4日(日)~8日(木)
青森の夏の風物詩、ねぶた。全国的には青森市中心部で開催されるものがよく知られているが、実はねぶたは県内各地で行われており、地域によって異なるスタイルが継承されている。
それらの中で独自のスタイルを打ち出しているのが、五所川原市の立佞武多(たちねぷた)、通称「立つねぶた」だ。高さはなんと約23メートル、重さは19トン(青森ねぶたは高さ5メートル、重さ4トン)。明治時代末には現在より大きいものが作られていたが、街中に電線が張り巡らされたことで小型化を余儀なくされた。しかし、平成に入って復元プロジェクトが立ち上がり、復活した。
巨大な立佞武多が天空から見下ろしてくるかのような光景は、目を疑うほどの迫力。「ヤッテマーレ!ヤッテマーレ!」という五所川原特有の掛け声と激しいねぶた囃子(はやし)も祭りの高揚感をあおる。
夏の青森では「青森ねぶた祭」や「弘前ねぷたまつり」「黒石ねぷた」「平川ねぷた」など各地でねぶたが行われる。短く、暑い夏の青森でねぶたをハシゴするのは贅沢な楽しみ方だ。
「徳島市阿波おどり」(徳島市)/8月11日(日)~15日(木)
阿波おどりは今や日本全国で行われているが、その最高峰はやはり本場・徳島市のものだ。現場で体感すると、それまでなんとなく抱いてきたイメージは一瞬にして吹き飛んでしまうだろう。すさまじい太鼓の低音と、けたたましく打ち鳴らされる鐘の音は、まさに衝撃的。街全体がうねるような圧倒的高揚感は、南米のカーニバルにも通じるものだ。
阿波おどりのグループは「連(れん)」と呼ばれ、徳島市では長い歴史を持つ老舗連から学生連まで無数の連が活動している。徳島市阿波おどりは、そうした多種多様な連が一堂に会する場でもある。
有料演舞場が設置されており、迫力ある群舞をじっくり味わえるのもポイントだ。一方、歩行者天国となった路上では、各連が輪になって演舞を繰り広げる輪踊りも行われる。有料演舞場で贅沢に楽しむのもあり、輪踊りで連の演舞を至近距離で楽しむのもあり。お気に入りの連を見つけて「推し活」をするのも現代ならではの楽しみ方だ。
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祇園祭(京都府京都市)http://www.gionmatsuri.or.jp/
五所川原立佞武多(青森県五所川原市)https://tachineputa-official.jp//
徳島市阿波おどり(徳島県徳島市)https://www.awaodorimirai.com
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大石始/文筆家
音楽雑誌編集部を経て、2007年よりフリーの文筆家として活動。地域と風土をテーマとしながら取材・執筆を続ける。主な著書は『異界にふれる』(産業編集センター)、『南洋のソングライン』(キルティブックス)、『盆踊りの戦後史』(筑摩書房)、『奥東京人に会いに行く』(晶文社)、『ニッポンのマツリズム』(アルテスパブリッシング)、『ニッポン大音頭時代』(河出書房新社)など。
Edit : Marina Nakada