
時代やトレンドに左右されることなく、長年愛用できるアイテムには格別な存在感がある。手にするだけで、これまで以上の満足感を得られ、自分自身もさらに磨かれていく。BRUDER編集部が選んだ、そんな『大人名品』と呼ぶにふさわしいアイテムを紹介します。
大人名品vol.16
L.L.Bean 『ボート・アンド・トート』

トートバッグといえばL.L.Bean(エル・エル・ビーン)を思い浮かべる人は多いだろう。子どもから大人まで、幅広い世代が一度は手にしたことがある、といっても過言ではない。その人気は日本だけにとどまらず、世界中で愛される。誕生当時の名称は『ビーンズ・アイス・キャリア』で、もとは氷を運ぶための実用品だった。
ブーツから始まったL.L.Bean
ブランドの創始者であるレオン・レオンウッド・ビーンは、アメリカ・メイン州グリーンウッド生まれ。自然豊かな土地でアウトドアに親しみ、ハンターのガイドとして森を歩くなかで、ブーツに水が浸透するという悩みを抱えていた。そこで考案したのが、革のアッパーとゴム製のボトムを組み合わせ、足を濡らさず歩きやすさも追求した『メイン・ハンティング・シュー』だ。

このブーツは1911年に完成し、翌年、レオンはL.L.Beanを設立。本格的な販売を始めた。これがブランドの原点となった。ただし、船出は決して順調ではない。初回に製造した100足のうち、90足が返品されたのだ。原因は、革とゴムの接合部分に不具合があったためだった。
返品されたブーツにはすべて返金対応を行い、不具合を改良したうえで再び世に送り出した。失敗を隠すのではなく、真摯に向き合い、より良い製品へと磨き上げる。この姿勢は、後のL.L.Beanのものづくりにも受け継がれていく。さらに彼の先見性は、製品開発だけにとどまらなかった。遠方のハンターやアウトドア愛好家にも届けるため、創業初期から通信販売を積極的に取り入れた。

当初は数ページのパンフレットだったものが、やがて本格的なカタログへと発展。1927年には、そのカタログが『Postage』誌で全米No.1と評価されている。店舗へ足を運んでもらうのではなく、自ら顧客のもとへ届ける。いまでは当たり前となったこの発想も、100年以上前のL.L.Beanにとっては、事業を大きく成長させる革新的な戦略だった。
氷を運ぶために生まれた完成品

1944年、『ビーンズ・アイス・キャリア』の名で、現在のボート・アンド・トートの原点となるバッグが誕生した。当時、一般家庭では木製のアイス・チェスト(クーラーボックス)に切り出した氷を入れ、食材を保存するのが一般的。電気冷蔵庫がまだ普及していない時代だけに、重い氷を運べて、水濡れにも耐えられるバッグが求められていた。
その役目を担ったのが、24オンスのヘビーウェイト・キャンバスを使用した『ビーンズ・アイス・キャリア』である。アメリカンコットンを高密度に織り上げた生地は、高い耐久性を備え、過酷な用途にも応えるつくりだった。

こうした堅牢なつくりは、誕生当時から変わらない。厚手のキャンバスはボトムを二重構造にし、荷重がかかる部分にはボンデッドナイロン糸によるダブルステッチを施している。さらに自社工場では、製造から検品まで“手仕事”を生かしたものづくりを貫いている。しつけ縫いや仮止めを行わず、熟練の職人が一気に縫い上げる工程も、このバッグならではの特徴だ。

必要な機能を徹底して磨き上げた結果、生まれたのは、80年以上経ったいまも愛用され続けるタイムレスなバッグだった。
実用品からファッションアイコンへ
1965年、『ビーンズ・アイス・キャリア』は『ビーンズ・ボート・アンド・トート・バッグ』へと名称を変更し、カタログに再登場した。ここを境に、その役割も少しずつ変化していく。
カラフルなハンドルや配色のバリエーションが加わり、単なる運搬用の道具から、日常に溶け込むバッグへと進化した。アメリカでは、アイビールックからプレッピースタイルへと移り変わるなか、合理性と実用性を重んじる学生たちからも支持を集めた。重い荷物を入れても型崩れしにくく、毎日気兼ねなく使える。魅力は、ファッションありきではなく、道具としての完成度の高さにあった。

さらに人気を後押ししたのが、イニシャルやメッセージを刺繍できるモノグラムサービスだ。同じバッグでも、刺繍を施すだけで自分だけの一品へと変わる。量産品でありながら、どこかパーソナルな存在。この絶妙なバランスも、長く愛され続ける理由の一つだろう。
小さなメッセージに宿るブランドの姿勢
ところで、ボート・アンド・トートには、製作を担当した職人のサイン入りカードが添えられていることをご存じだろうか。そこには、“Handcrafted for You”というメッセージと、メイン州ブランズウィックの自社工場で仕立てられたことを示す一文、そして仕上げを担った職人のサインが記されている。
このカードが伝えているのは、大量生産品であっても、一点一点に職人の仕事が息づいているということだ。そこには、品質だけでは測れない、ものづくりへの誇りと職人への敬意が込められている。氷を運ぶための実用品として生まれたバッグは、いまでは世代を超えて、それぞれの日常を運ぶ存在になった。
お問い合わせ先
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L.L.Beanカスタマーサービスセンター TEL: 0422-79-9131
Text : Yumi Takahashi
Edit : Junko Itoi








