時代やトレンドに左右されることなく、長年愛用できるアイテムには格別な存在感がある。手にするだけで、これまで以上の満足感を得られ、自分自身もさらに磨かれていく。BRUDER編集部が選んだそんな『大人名品』と呼ぶにふさわしいアイテムを毎月紹介します。
大人名品vol.5
WOOLRICH(ウールリッチ)「GORE-TEX(ゴアテックス)アウター」
空模様が突然変わる。そんな場面は、もはや日常の一部となりつつある。とりわけ自然の中で過ごす時間が長いゴルファーにとって、雨や風との向き合い方は、避けては通れない課題だ。だからこそ問われるのが、“静かなる対応力”。いかなる天候にも動じず、装いを崩すことなく、平静を保つ――そこにこそ、成熟した大人の品位が宿る。
その揺るぎない佇まいを支える装備として改めて注目したいのが、アメリカ発の老舗アウトドアブランド「WOOLRICH」の、高機能素材『GORE-TEX(ゴアテックス)』を採用したアウターだ。厳しい自然環境に耐える機能性と、洗練されたファッション美学が融合されている。
米国最古のアウトドアブランドという信頼
1830年、イギリス移民のジョン・リッチ2世が、ペンシルベニア州にウーレン・ミルズ(毛織工場)を設立した。当初は馬車で各地を巡りながらウール製品を販売し、やがてソックスや毛布、自社製の衣類を開発。その品質の高さは人々の信頼を集めていった。
冬のレジャーとしてハンティングが盛んだった1850年頃、誤射を防ぐために考案されたのが、現在もブランドの象徴ともなっている「バッファローチェック」だ。その後も、戦地の兵士へのブランケット支給や、南極探検隊への衣服提供など、国家的プロジェクトに貢献するブランドへと成長。その姿勢はやがて合衆国政府からの公式要請へとつながっていく。
国家の要請に応えた「アークティックパーカ」の誕生
1972年、政府の依頼により、アラスカのパイプライン建設作業員向けに開発されたのが「ARCTIC PARKA(アークティックパーカ)」だ。氷点下の環境でも身体を温かく包み、動きやすさを損なわない。過酷な自然の中で信頼されるウェアとして地位を確立した。こうしてウールリッチは、“人のため”という理念を起点に、着る者の命を守る装備を作り続けてきた。
技術と理念が出会ったとき
ウールリッチが実直にモノづくりを続けていた1970年代初頭、アメリカ人夫婦ビル・ゴアとヴィーヴィアン・ゴアは、自宅地下で研究を進めていた。2人はフッ素樹脂の合成ポリマーに可能性を感じ、のちに世界のアウトドアギアを変革する「GORE-TEX ファブリクス」を創業した。
防水性と透湿性の相反する性能を両立させることで、「濡れず、蒸れず」という理想の素材を誕生させた。人々の生活を支えたいという志を持つ2社が手を組んだのは、まさに“技術と理念が出会った瞬間”だった。
ウールリッチとGORE-TEX、その確かな結びつき
ウールリッチがGORE-TEXの技術を採用したのは1979年のこと。ブランド創業150周年を目前に控えたこの年、アウトドアの新たな潮流にいち早く呼応し、GORE-TEXファブリクスを用いたマウンテンパーカーを開発した。当時、アウトドア市場はバックパッキングやキャンプ、登山といったアクティビティの人気と共に急速に成長していた。
その変化を捉え、クラシカルな意匠と革新的なテクノロジーを融合。厳しい自然環境に対応しつつ、美しさと信頼感を兼ね備えた“機能服”という新たなジャンルを確立した。この“先駆けとしての誇り”が、今もブランドの矜持として受け継がれている。
アウトドアアイテムがファッションを変えた
2000年代初頭、イタリア・フィレンツェで開催された国際的メンズファッション見本市「ピッティ・ウォモ」にて、変化の兆しが現われた。世界中の洒落者たちが集う場で、フォーマル一辺倒だった装いに“アウトドア”というスパイスを加えるスタイルが注目され始めたのだ。
本格的なアウトドアギアを日常のコーディネートに取り入れる。その“余白の美学”は、やがて「ノームコア」へと昇華し、現代の“テック素材を取り入れた都会的ファッション”という潮流を生んだ。いまやGORE-TEXは実用性だけでなく、ファッション的価値においても不可欠な存在となっている。
いま選ぶべきは、原点回帰と進化の融合
2025年、ウールリッチが初のゴアテックスアウターを世に送り出してから約半世紀。今季はその原点に立ち返り、初代モデルの精神を受け継ぐ復刻アウターを発表。いずれも、着る者の価値観を映し出す「装備」としての完成度を備えた逸品だ。
装いとは、沈黙の中で語られる人格である。成熟した大人に求められるのは、見せびらかすための服ではなく、“己を律する”ための服。ゴアテックスを採用したウールリッチのアウターは、どんな状況でも揺るがぬ冷静さと、自らの品位を支える装備である。
ラウンド中の雨も、通勤時の嵐のなかでも、旅先での突風にも。慌てることなく、表情を変えることなく、堂々と立つ姿。これこそが真に信頼される“大人”の証なのではないだろうか。防ぐのは、雨だけではない。慌てる自分、崩れる装い、そして失われる信頼も。
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WOOLRICH JAPAN https://www.woolrich.jp/
Text : Yumi Takahashi
Edit : Junko Itoi