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日本で途切れるV8の鼓動 マクラーレン「750S / GTS」

マクラーレンと聞けば、まず思い浮かぶのはF1グランプリの名門チームだろう。昨年はドライバーズ、コンストラクターズの両タイトルを獲得。その勢いはサーキットの中だけの話ではない。ロードカーの世界でも、イタリア勢と肩を並べるスーパースポーツブランドとして、確固たる存在感を築いてきた。

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そのマクラーレン・オートモーティブから昨年6月、日本市場に向けてひとつの発表があった。主力モデル「750S」と、グランドツアラーとして評価の高い「GTS」の販売が、2026年6月末で終了するという。理由は、日本の改正保安基準で求められる衝突被害軽減ブレーキへの対応が困難であること。パフォーマンスを最優先に設計された構造が、日本の法規と両立しないという現実がそこにある。

「モノセル」と呼ばれるカーボンモノコックシャシーと、V8ツインターボエンジン。2011年に登場した「MP4-12C」から続いてきたこの構成は、マクラーレンの思想そのものだった。軽量かつ高剛性なシャシーに、即応性の高いV8ターボを搭載することで実現する、鋭敏で純度の高いドライビングフィール。アクセルに対するレスポンスの速さ、回転が高まるにつれて濃度を増すサウンド、背中を押し続けるトルクの厚み。それは単なるスペックではなく、機械と人間が直接対話するための装置だった。そのV8モデルの系譜が、日本市場では途切れる。条件付きとはいえ、この事実は小さくない。

発表後、マクラーレンは日本向けに特別な限定モデルを用意した。750Sおよび750Sスパイダーに61台限定で設定される「750S JC96」、そしてGTSには22台限定の「GTS シグニチャーエディション」だ。

750S JC96は、1996年の全日本GT選手権でマクラーレン「F1 GTR」がタイトルを獲得した栄光へのオマージュ。その象徴が、ブラックとピンクを組み合わせた特別なリバリーである。61台のうち、わずか4台にのみ施される仕様だという。さらにハイダウンフォースキットを装着し、内外装には専用ディテールが与えられる。単なるカラーエディションではない。レースの記憶をまとった一台だ。

一方のGTS シグニチャーエディションは、4種類の内外装仕様から選択可能。発表写真にある「ホーソーン」と呼ばれるグリーンメタリックにホワイトレザーを組み合わせた仕様は、英国ブランドらしい気品をたたえる。シルバー仕上げの10スポークホイールも落ち着いた佇まいを強調し、グランドツアラーとしての性格をより明確にしている。

そしてGTSの特筆すべき個性は、リアにゴルフバッグを縦方向に積載できるラゲッジスペースを持つことだ。スーパースポーツでありながら、週末のゴルフにも連れ出せる現実性。この二面性こそが、GTSというモデルの魅力である。

それでも、V8ツインターボの鼓動に魅せられてきたファンにとって、この知らせはやはり寂しい。アクセルを踏み込んだ瞬間の爆発的な加速、回転上昇とともに高まる音の緊張感、カーボンモノセルが生み出す一体感。それらは数値や環境性能だけでは置き換えられない体験である。

電動化へと確実に舵を切る自動車業界。その流れの中で、マクラーレンのピュアガソリンV8を選べる時間は限られている。静かに、しかし確実に、時代は移ろう。 だからこそ今、この最後の時間には重みがある。

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Text : Takuo Yoshida

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