
クルマは持っていなくても、株は持っている。そんな人がいるかもしれない。BEV(電気自動車)の代表格であり、いまやアメリカの自動車産業を語るうえで欠かせない存在となったテスラ。今回試乗したのは、その主力4ドアセダン「モデル3 RWD」だ。
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テスラという企業、そして創業者であるイーロン・マスクは、自動車の枠に収まらない存在だ。宇宙開発企業スペースXをはじめ、AIやロボティクスなど多方面に挑戦を続ける。その思想はテスラにも色濃く反映されている。ロボタクシー、AIソフトウェア、駆動用バッテリーの自社生産。自動車メーカーというより、未来を実装する企業へと変貌しつつある。

モデル3は2017年に登場。発売当初から生産が追いつかないほどのヒットを記録し、その後も細かな改良を重ねてきた。2023年の大幅改良では、薄くシャープなヘッドランプを得て、表情はより精悍に。デザインは一層ミニマルに洗練された。

今回試乗したRWDは、リアに1基のモーターを搭載。一充電航続距離は594km(WLTCモード)。車両価格は513.3万円(税込)で、補助金を活用すれば実質負担はさらに下がる。 ボディは徹底して滑らかだ。余計な線を排し、空気抵抗の低さを直感させるフォルム。ドアを開けると、広大なガラスルーフが視界いっぱいに広がる。後席頭上からリアエンドまで続く一枚ガラスは、キャビンに独特の開放感を与える。

だが最大の驚きは、運転席に座った瞬間だ。目の前にメーターはない。ダッシュボードに物理スイッチもない。あるのは中央に配置された15.4インチの大型タッチスクリーンのみ。シフト操作も速度表示もそこに集約される。最初は戸惑う。しかし数分後には理解する。これは機能の削減ではなく、思想の整理なのだと。

ブレーキを踏むだけでクルマは目覚める。アクセルに足を乗せると、最大トルク340N・mが一瞬で立ち上がる。264psという数値以上に、応答は鋭い。エンジン音も変速ショックもない。ただ静寂の中で景色が後方へと流れていく。加速は刺激的というより正確だ。アクセル操作に対する反応がリニアで、制御の緻密さが際立つ。

乗り味も印象的だ。金属スプリング式サスペンションでありながら、路面の凹凸を角なくいなし、まるでエアサスペンションのようなしっとり感を持つ。ボディ剛性も高く、1765kgという車重を意識させない安定感がある。高速道路ではACC(アクティブ クルーズ コントロール)を作動させる。周囲の車両を滑らかに把握し、自然な減速と加速を繰り返す様子は、ソフトウェア企業としての側面を強く感じさせる。

30分も走れば、この操作体系にも走行感覚にもすっかり慣れている。むしろ他のクルマに戻ったとき、情報の多さや物理スイッチの存在が過剰に思えるかもしれない。 後席の足元は広く、トランクはキャディバッグ2本を横置き可能。実用性も十分だ。日本国内には141か所、707基のスーパーチャージャーが稼働し、最大250kWの高出力充電に対応する。インフラの整備も着実に進んでいる。

モデル3は、圧倒的な刺激を与えるクルマではない。だが、日常の質を静かに更新していく力を持つ。エンジンの鼓動ではなく、制御の完成度で魅せる新時代のセダン。「何か面白いクルマはないか」と思うなら、一度この世界を体験してみる価値はある。未来は、思っているよりもずっと現実的だ。

テスラ モデル3 RWD 車両本体価格 513.3万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4720 X 全幅 1850 X 全高 1441 mm
- ホイールベース | 2875 mm
- 車両重量 | 1765 kg
- モーター最高出力 | 264 ps(194 kW)
- モーター最大トルク | 340 N・m
- 一充電航続距離 | 594 km(WLTCモード)
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Text : Takuo Yoshida








