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静かに幕を下ろす、スポーツカーの本質 アルピーヌ「A110 R70」最後の純血ミッドシップ

短い生涯を終えようとしている名車がある。それがアルピーヌ「A110」だ。今回試乗したのは、その最終章に位置づけられる「R70」。アルピーヌブランドが70周年を迎えたことを記念するモデルであると同時に、2017年の復活以来、高い評価を受け続けてきたライトウェイトスポーツの“終着点”でもある。フランス・ディエップの工場で生産されてきたA110シリーズは、今年6月をもってその歴史に幕を下ろす。

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生産終了の理由は、販売不振や為替の問題ではない。排ガスや騒音といった規制強化という、時代の要請によるものだ。量販モデルであれば電動化による延命も現実的だが、A110のような少量生産のピュアスポーツに、さらなるコストを投じる判断は現実的ではなかった──そう理解するのが自然だろう。

最終ラインアップは、大きく2種類。快適性と完成度を高めた「A110 GTS」と、走りに振り切った「A110 R70」。さらに日本市場向けには30台限定の「ブルーアルピーヌエディション」が用意され、これが文字通りのラストとなる。今回は、その中でも最もストイックなR70に触れた。

ドアを開けた瞬間、空気が変わる。カーボン製のバケットシートに5点式レーシングハーネス。視界に飛び込んでくる景色は、どこかラリーカーを思わせるスパルタンさだ。しかし、走り出して数秒で、その印象は良い意味で裏切られる。

サスペンションは十分なストロークを持ち、路面の情報を丁寧に伝えながらも突き上げは少ない。ミッドシップ特有の鋭さを感じさせないハンドリングは、ステアリングを切った分だけ素直にノーズが向きを変え、クルマとの距離が一気に縮まる。7速DCTは変速を意識させないほど滑らかで、アクセル操作に集中できる環境が整っている。

R70では、シートのホールド性が高まったことで、4輪のグリップ感がより明確になった。コーナー進入時、前輪にかかる荷重が自然と手に伝わり、「まだいける」「ここで踏める」という判断が直感的にできる。アルカンターラ張りのステアリングを握っていると、ドライバーの操作を拒まないこのクルマの懐の深さに、何度も頷かされる。

アルピーヌA110が支持されてきた理由のひとつが、日常域での扱いやすさだ。確かに快適性ではGTSに軍配が上がるが、R70であっても街中で過度な緊張を強いられることはない。視界の良さ、扱いやすいボディサイズ、賢いAT制御──どれもが「毎日でも乗れるスポーツカー」という思想を裏切らない。

ポルシェ「ケイマン」やロータス「エミーラ」といったライバルと比べても、アルピーヌの特性は明確だ。低速域での乗り心地、ワインディングでの挙動の分かりやすさ、そして限界が近づく過程の穏やかさ。ドライバーの腕前を選ばず、自信を与えてくれるスポーツカーという点で、A110は唯一無二の存在と言える。

実用面でも、このクルマは意外なほど現実的だ。フロントに100リットル、リアに96リットルのラゲッジスペースを備え、週末の小旅行にも対応する。キャディバッグの置き場は悩ましいが、助手席に寝かせるという割り切りも、このクルマらしい。ゴルフ場までの道のりそのものを楽しむ──そんな贅沢な使い方が、最も似合う。

A110シリーズの受注は3月31日まで。日本向けの生産枠は、すでに完売間近とも言われている。今後アルピーヌはEVへと舵を切るが、この完成度を持つ純ガソリンミッドシップスポーツが、再び現れる可能性は限りなく低い。

「ラストチャンス」という言葉が氾濫する時代だが、A110 R70はその言葉が本当にふさわしい一台だ。静かに、しかし確かな存在感を残して──この名車は、いま終わろうとしている。

アルピーヌA110 R70  車両本体価格 1790万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4255 X 全幅 1800 X 全高 1240 mm
  • ホイールベース | 2420 mm
  • 車両重量 | 1090 kg
  • エンジン | 直列4気筒 ターボ
  • 排気量 | 1798 cc
  • 最高出力 |  300 ps(221 kW)
  • 最大トルク |  340 N・m
  • 変速機 |  7速 AT(DCT)

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Text : Takuo Yoshida

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