スポーツカーの世界では、ベーシックグレードに続いてハイパフォーマンス仕様が登場するのが常。ポルシェで例えれば「911カレラ」に対する「911ターボ」や「911GT3」のように。その流れが、いよいよ本格SUVにもやってきた。ランドローバー「ディフェンダー」に新たに加わった“OCTA(オクタ)”は、ディフェンダーの名を冠しながらも、もはや別格の走りを手に入れている。
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モデル名の由来は、八角形のダイヤモンド──強さと美しさを併せ持つ宝石になぞらえたものだ。見た目にも明らかに異なるのは、張り出したフェンダーフレア。専用デザインのバンパーとタイヤ&ホイールが、ただのディフェンダーではないことをさりげなく、しかし強烈に主張する。
搭載されるエンジンも別物。従来のスーパーチャージドV8に代わり、BMW製4.4リッターV8ツインターボ+MHEV(マイルドハイブリット)を搭載。型式は“S68”。BMW Mの最新ユニットだ。最高出力は驚異の635ps。重量級ボディを0-100km/hで4.0秒ジャストまで引っ張る。
実車に乗り込むと、外観の存在感に負けず劣らず、インテリアもただならぬ雰囲気を放つ。シートは前後とも高いホールド性を誇るバケットタイプ。ドライバーズカーとしての資質は、細部にまで徹底されている。
エンジンスタートとともに響く咆哮(ほうこう)。乾いた重低音がキャビンを揺らし、気分が一気に高まる。ステアリングを切り、ゆっくりとアクセルを踏む。街乗りでは驚くほど穏やか。だが、ひとたび意図的に右足を沈めれば、地面を蹴り飛ばすような怒涛の加速が始まる。 だが不思議なことに、怖さはない。6Dダイナミクスという名の新機軸サスペンションが、車体の動きを正確にコントロールしている。コーナーでもロールは最小限。動きにムダがなく、速いのに疲れない。
オフロードに入ると、この足まわりの真価が見えてくる。強烈な凸凹をモノともせず、車体はふわりと飛び越える。まるでサスペンションが、次の地形を予測しているかのようにスムーズなのだ。タイヤが常に路面を捉えている安心感。だからこそ、アクセルを踏める。だからこそ、楽しめる。
もっとも、大半のオーナーは泥道を走ることはないだろう。それでも、このモデルが熱望される理由は“走らせなくても分かる本気度”があるからだ。日本導入分は、標準仕様が130台、そして限定仕様「エディションワン」が90台。税込価格はそれぞれ2099万円、2224万円と決して安くはない。にもかかわらず、いずれも即完売。この勢いでは、来年分も入手困難になるかもしれない。
手に入らないと聞くと、つい欲しくなってしまう。そんな衝動で購入したとしても、このクルマはきっと期待を裏切らない。初めてディフェンダーに興味を持ったという人にも、今が飛び込むチャンスかもしれない。
ランドローバー ディフェンダー OCTA 車両本体価格: 2099万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4940 X 全幅 2065 X 全高 2000 mm
- ホイールベース | 3020 mm
- 車両重量 | 2610 kg
- 排気量 | 4394 cc
- エンジン | V型8気筒 ツインターボ + MHEV
- 最高出力 | 635 PS(467 kW)
- 最大トルク | 750 N・m
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Text : Takuo Yoshida