フィアットといえばイタリアのベーシックカーブランドとして広く知られている。中でもコンパクトモデルのフィアット「500(チンクェチェント)」は、愛らしいボディと相まってブランドを象徴する存在だ。フィアットはバッテリーEVにも積極的で、2022年には500のBEV版である「500e」をデビューさせている。
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今回試乗した「600e ラプリマ」は500eのボディをひと回り大きくした5ドアハッチバックモデル。BEVといえば最初に気になるのは航続距離だが、今回はフィアットならではの愛らしい表情に目を奪われた。
少し眠そうな目をしたアニメキャラクターのようなフロントマスクが特徴的で、正面からのキャラクター顔に対し、横から見たシルエットは思いのほかボクシーで、丸くて小さな500eより実用性を重視している印象だ。
前後のドアを開けて室内を確認すると、白い内装色の効果もあって、広々とした印象を受けた。ボディサイズはBMWのラインアップ中で最小のBEV「iX1」よりも全長で300mmほど短い。つまり、普段使いに最適なサイズ感だ。
運転席からの眺めもフィアットらしさがあふれている。すっきりとしたダッシュパネルは全体的に丸みを帯びたデザインで、500eの兄弟車らしさが随所に感じられる。走り出すと、スロットルを踏み込んだ瞬間から鋭い加速を披露。とはいえ、BEVのハイパワーモデルでありがちな、リアが沈み込むほどの暴力的な加速ではなく、高速道路の合流時に“ちょうどいい”実用的なダッシュ力を提供してくれる。
前輪を駆動するモーターの最高出力は156ps。これに対する航続距離はバッテリー残量96%で400km弱と表示されていた。これはWLTCモード値(493km)の約2割減で、現代のBEVの常識に即している。この数値が示す通り、近場の普段使いなら週1回の充電で十分だし、途中で30分ほどの充電を挟めば、週末のゴルフ場往復も余裕でこなせるだろう。
今回は混雑した都心と首都高速で約120kmを走行した結果、外観の可愛らしさとは裏腹に、基本性能の高さが際立つことを実感した。ボディは硬質でカッチリとした印象で、乗り心地はしっとりとして心地よい。特にステアリング上のスイッチで操作するアダプティブクルーズコントロール(ACC)や、横長モニターを通じたインフォテイメントシステムの操作性は直感的で扱いやすい。比較的新しいプジョー系プラットフォームの採用が、これらの高い完成度に寄与しているのだろう。
リアのラゲッジスペースは丸みのあるスタイリングの影響もあってコンパクトだが、6:4分割可倒式リアシートを活用すれば、キャディバッグも問題なく積載可能。1本なら4の部分を倒せばよく、2本なら6の側を倒すことでスムーズに収納できる。
フィアット500eはその愛らしいスタイリングで多くのファンを魅了しているが、ミニマルな2ドアボディゆえに万能とは言い難い。その点、600eはサイズ感、使い勝手、そしてBEVとしての性能全てにおいてバランスが取れており、弱点がほとんど見当たらない。フィアットならではのデザインが気に入ったなら、「買い」という判断に間違いはないだろう。
フィアット 600e ラプリマ 車両本体価格: 585万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4200 X 全幅 1780 X 全高 1595 mm
- ホイールベース | 2560 mm
- 車両重量 | 1580 kg
- モーター出力 | 156 ps(115 kW)
- 最大トルク | 270 N・m
- 一充電航続距離 | 493 km(WLTCモード)
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Text : Takuo Yoshida