2枚ドアのクーペボディを持つことがスポーツカーの定義ではない。イタリアン・スポーツカーを所有することで得られる心の高ぶりは、戦う血統と、ドライバーの心を揺さぶる官能的なドライブフィールにある。ミラノの名門が久しぶりに放った4ドアのハイパー・セダンは、官能的であるだけでなく、類稀なるスピードにおいてもファンを魅了する1台である。
実用性を考えれば4ドアセダンだが、スポーツカーとしての機敏な走りと緊張感溢れるスタイリングを求めるのなら2ドアのクーペに軍配が上がる。
そんな僕の古い考えは、1台のセダンをドライブした瞬間に霧散してしまった。クルマ好きの友人が、海外出張の間我が家のガレージにアルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオを預けていったのである。
地面に突き刺さる盾のように構える特徴的なグリルを起点とした攻撃的なシルエットは、4ドアでありながらスピードへの欲望を隠そうとしない。
イタリア、ミラノ市の紋章をエンブレムに取り込んだスポーツカー・ブランドであるアルファ・ロメオ。その名前は日本でも広く知れ渡っているが、今年で創業108年にもなる古豪の真の姿を知る人は少ない。
イタリア車のヒエラルキーを車両価格や知名度によって判断すると、その頂点には言わずもがなのフェラーリが来る。だがフェラーリの創始者であるエンツォ・フェラーリ自身も、アルファ・ロメオのレーシングカーを走らせるドライバーだったという史実を知っていれば、そう簡単に順位付けなど出来るものではないのである。
2016年にデビューしたアルファ・ロメオの4ドアセダンであるジュリア。そのネーミングは'60年代に登場し、高性能セダンの代名詞となった初代のそれを継いだもの。
アルファ・ロメオはジュリアの名称を40年近く使っていなかったのだが、ブランニューのセダンをデビューさせるに当たって、伝統的な名前をリバイバルさせた格好になる。
21世紀のジュリアの最大のトピックは、前輪駆動モデルが主になっていたアルファ・ロメオが、24年ぶりにFRレイアウトを採用した点にある。
フロントにエンジンを縦置きし後輪を駆動するFRレイアウトは、スポーティですっきりとしたドライブフィールを創出することで知られ、かつてのアルファ・ロメオもほとんどがFRモデルだったのである。
ジュリアのプラットフォームはマセラティとの共同開発によって生み出されたもので、FRレイアウト以外に4輪駆動にも対応している。
現在のジュリアのラインナップは大きく分けて4モデルから成る。ベースモデルのジュリア、ジュリア・スーパー、そして2駆と4駆が揃うハイパワーのジュリア・ヴェローチェが2リッター4気筒ターボのマルチエア・ユニットを搭載。
一方、シリーズの頂点に位置するジュリア・クアドリフォリオは2.9リッターV6ターボ・エンジンを搭載している。
4つ葉のクローバーのマークは、非凡なアルファ・ロメオの象徴である。そのエンブレムをフロントフェンダー上の誇らしく掲げたジュリア・クアドリフォリオのスペックは驚くほどだ。
2.9リッターターボというスペックは、一昔前ならば350psも出ていればハイパワーと表現できたが、クアドリフォリオのそれは510psにも達しているのである。
8段のオートマティック・ギアボックスを介して後輪を駆動する2駆だから、シャシーの仕上がりにもよほど自信があるのだろう。ボディサイズから考えても、スペックから追って行っても、ジュリア・クアドリフォリオがライバルと目しているのはメルセデスAMGのCクラスや、BMWのM3といったハイエンド・セダンたちで間違いない。
アルファ・ロメオは実績充分なライバルのドイツ勢に対するジュリア・クアドリフォリオのポテンシャルを証明すべく、デビューイヤーの2016年に敵地であるニュルブルクリンク・サーキットに乗り込んで、ポルシェ・パナメーラ・ターボが保持していた4ドアセダンの最速タイムを6秒短縮する7分32秒をマークしてみせたのである。
滑らかな曲線で覆われているボディは、ひと目でアルファ・ロメオとわかるダイナミックな造形で纏められている。そのスポーツセダンとしての資質は室内にも見てとれる。全長4635mm、全幅1865mmというボディサイズは堂々としたものだが、室内は数値ほどには広くない。
分厚いドアとセンターコンソールに挟まれたドライビングスペースは縦長ですこぶるスポーティだが、他のシートスペースも同様にタイトに作り込まれている。これは、乗員全員でスポーティな走りを体感できる仕様といえるかもしれない。
見た目ほど広くないという表現はラゲッジスペースにもあてはまる。特にジュリアの中でも頭抜けたパワーを誇るクアドリフォリオは、シリーズ中で唯一リアのシートバックを倒すことができない。このため、複数のゴルフバッグを積む場合はラゲッジスペース以外にリアシートも活用する必要がある。
友人はもちろんゴルフを嗜んでいるのだが、それ以上にクルマ選びの拘りが強いので、積載量より走りを選んだということなのだろう。
ジュリア・クアドリフォリオのキレ味鋭いハンドリングは、最初の曲がり角を曲がっただけで体感できる。ステアリングの初期応答が驚くほど鋭いのである。4ドアセダンで、これよりクイックなステアリング特性のクルマはあるまい。
フロントに少し重量の嵩むV6ターボ・エンジンを搭載しているが、その重量増を相殺するためボンネットはカーボン製に置き換えられている。やっぱり“アルファ”は並の自動車メーカーではないのだ。
ステアリング裏のパドルシフトで操る8速ATのシフトは滑らかにパワーを繋いでくれるので、街中で510psを体感する瞬間は訪れなかったのだが、いつものゴルフコースに向かう高速道路ではその実力を遺憾なく発揮してくれた。
ボディの重みやスピード感をほとんど感じさせないまま、気がつくとけっこうなスピードに到達しているのである。飛ばそうと思わなくても、目的地までの時間は確実に短縮される。しかも、ほとんどのスポーツカーを凌駕するクイックなステアリングと、少し大き目のロールを伴ってダイナミックに反応するシャシーが山道を存分に楽しませてくれるのだ。
シフトレバーの根元にはアルファDNAドライブモードの切り替えスイッチがあり、サスペンション・セッティングやシフトタイミングを自在に操ることができる。最強の「レース・モード」を選べば、そのドライブフィールにはレーシングカーのような一体感が漲る。数値的にはドイツのライバルに近いが、乗り手を楽しませるフィーリングは、イタリア人の方が数段上手という印象である。
ジュリアの弱点はインフォテイメントが心許ない点で、スマホと接続することで成立するナビゲーションシステムなどは時代遅れの感もあるが、その割り切り方にもイタリア人のクルマ作りのウェイト配分が垣間見れて興味深い。
明日はいよいよジュリア・クアドリフォリオのオーナーである友人が帰ってきてしまう日だ。ジュリアとの別れが名残惜しいので、今夜は久しぶりに夜のドライブに出かけようと思っているところだ。
ALFA ROMEO GIULIA QUADRIFOGLIO
メーカー希望小売価格:11,320,000円~(税込)
- ※写真はオプション装着車。
- ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
- ボディサイズ | 全長4,635 × 全幅1,865 × 全高1,435mm
- ホイールベース |2,820mm
- エンジン |V6 DOHC ツインターボ
- 排気量|2,891cc
- 最高出力 |510ps (375kW) / 6,500 rpm
- 最大トルク | 600Nm / 2,550 rpm
- 平均燃費 | 5.9km/l(満タン法、BRUDER調べ)
- アルファ・ロメオ ジュリア・クアドリフォリオのトピック
- ●セダンらしからぬ緊張感あふれるスタイリング
- ●ニュルブルクリンク、セダン最速を奪取
- ●4ドアの実用性と鋭いハンドリングの共存
- Text : Takuo Yosshida