“クールスモール”キーワードは意外性

ゴルファーの愛車は4ドアセダン、とはいつ誰が決めたのか?意外性に富んだ選択こそが、時に人生を力強く前進させるきっかけとなる。必要なのは発想の転換かもしれない。クルマ選びで言えばそれはコンパクトモデル。それもプレミアム感に溢れ、乗って愉しい1台である。ゴルフバッグを2本積んで2人で出かけるならこれで充分。さぁ、あなたに最適な“クールスモール”を見つけ出そう。

カントリークラブの駐車場において、4ドアセダンが大多数を占めることは今さら記すまでもないだろう。だが日常生活まで含めて考えた場合、4ドアセダン1台であらゆる用事をこなすのは少しスマートさを欠く。

いつも4名乗車でコースに出かけるとは限らないし、家人と2人で買い物がてら近所のゴルフ練習場に立ち寄るようなシチュエーションだって当然のようにあるだろう。

フルサイズの4ドアセダン、もしくはSUVに対するセカンドカーとして俎上に載せられる機動性重視のお洒落な1台こそ“クールスモール”なのである。

いつの時代もゴルファーのクルマ選びで重要視されるのはリアのラゲッジスペースに何本のゴルフバッグを積めるのか、と言うことで変わらない。

だがそんな思い込みを一旦忘れて、コンパクトカーのリアシートスペースもしくはリアのシートバックを倒しゴルフバッグを2本積みしてみる。

そんな柔軟な考え方ができれば、クールスモールの世界観は俄然魅力的なものに見えてくるはずだ。

かつての輸入コンパクトモデルのうち、日本の軽自動車に匹敵するほどボディの小さいモデルはクラシック・ミニくらいのもので、フォルクスワーゲンを例に取ればゴルフでも立派なミドルサイズの部類に入り、それより小さなポロでも“最小”とは言えなかった。

だが今日、そのフォルクスワーゲンにはup!という最小モデルがラインナップされており、いわゆるA~Bセグメントと言われるサイズ領域でヨーロッパ生まれのライバルたちが激しく争っているのである。

今回ブルーダーが敢えて“クールスモール”と銘打ったのは、今日の輸入コンパクトカーのクオリティが大幅にアップしプレミアムの領域に入ってきている事実に基づいている。

クオリティとは単に見た目の作りの良さだけでなく、衝突安全や動力性能といったあらゆる領域に言えることである。ラインナップの幅を際立たせる目的もあり、以前は多くの自動車メーカーが上級モデルはひたすら豪華に、一方エントリーモデルではシンプル&リーズナブルにこだわることが通例だった。

そんな状況に一石を投じたのは、もともとボディの大きな上級モデルしか生産していなかったメルセデス・ベンツだった。彼らは1980年代半ばに、我が国では「小ベンツ」などと呼ばれた190Eシリーズをリリースし、作りと安全面に妥協のないコンパクトモデルを世に問うたのである。

1990年代の終わりになるとメルセデスは同社として初の前輪駆動車(FF車)であり、190Eとその後継モデルであるCクラスよりはるかに小型のAクラス(Bセグメント)をデビューさせ、ブランドの幅を一気に広げることに成功したのである。

メルセデス・ベンツAクラス以前のコンパクトモデルは、クラシック・ミニのようにコストの掛かった小さな高級車もいくつか存在していたが、その大半を占めていたのは簡素なベーシック・モデルがほとんどだった。

イタリアのフィアットやフランスのプジョー、そして日本製のハッチバック車といった軽快なFF車がその代表である。

だがダブルエアバッグや自動ブレーキに代表される安全性能の向上や、オートマティックギアボックスの多段化、排気量が小さくても最高出力の大きなダウンサイジングターボ・エンジンによる動力性能の底上げ、さらにはナビやオートクルーズ機構の普及によって、コンパクトモデルはボディの大きな上級モデルに劣らない性能を獲得するに至ったのである。

とはいえ、上記の性能アップを果たしたことにも関連し、今日のコンパクトモデルのボディサイズはかつてのモデルほどには小さくないのが実状である。

クラシック・ミニと現行モデルのミニでは全長が80センチ以上も長くなっており、まるで別物のように見えるし、フォルクスワーゲンのup!は、1974年にデビューし現在は2クラスも格上となっているゴルフの初代モデルとほぼ同じボディサイズなのである。

現代の“クールスモール”は4ドアセダンと比べれば充分にコンパクトだが、それでも室内は少しも窮屈な感じがしない。このちょうどいいサイズ感と適度に増したプレミアム性こそが現代の小型車のスタンダードになりつつあるのだ。

現代のクールスモールの面白みは、個性派が多いという点である。例えば'90年代であれば小型車の駆動方式はFFと決まっていたが、現代ではルノー・トゥインゴやスマート・フォーフォーのRR(リアエンジン・リア駆動)、そしてBMW 1シリーズのFR(フロントエンジン・リア駆動)といったモデルも存在し、駆動方式の違いがドライブフィールにも明らかな変化をもたらしている。

一方パワートレーンを電気モーターのみに頼るコンパクトEVも、フォルクスワーゲンのe-up!やスマート/エレクトリックドライブといったモデルによって具現化されている。

メルセデス・ベンツがプロデュースするプレミアム・コンパクト・ブランドであるスマートは2020年以降段階的にEV専業となっていくことを宣言しているほどである。

コンパクトなボディは道路幅の狭い都市部における取り回しで確実なメリットがあり、しかもセカンドカーとして考えた場合の経済性にも優れている。そんなクールな小型車の中でも、ブルーダーが主役級として太鼓判を押すのはスマート・ブラバス・フォーフォーとアバルト595の2台である。

スマートは有名チューナーであるブラバスとタッグを組み、一方レーシング・コンストラクターを原点とするアバルトはフィアットのベースモデルを磨き上げことで新たな個性を作り出している。今月はダブルネームによってインパクトを極限まで高めた“クールスモール”の2台をインプレッションしていく予定である。

いつも黒っぽい大型セダンで静々とカントリークラブに向かっていたあなたであれば、ピリッとスパイスの効いた“クールスモール”で彼女を迎えに行ったときのインパクトの大きさは計り知れない。馴染みのゴルフコースの攻め方でもクルマ選びでも、ベテランと呼ばれる域に突入したオトコにとって大事なのは発想の転換、もしくは遊び心溢れる意外性なのかもしれない。

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