オープン2シーター、最も贅沢なクルマ

「贅沢なクルマとは」という言葉から、あなたはどんな1台を思い浮かべるだろうか?高級車はブランドの格や装備の多寡によって評価されることが多いが、ボディ形式そのものにも贅沢は存在する。

7シーターで充分な荷室を備えたSUVはこの上なく実用的なクルマといえるが、その精神性は贅沢の対極に位置している。実用性や使い勝手に背を向けることで得られる快楽、たった2人の乗員のために作り込まれた非日常的な1台。

屋根を開けることでオープントップドライブを満喫できるオープン2シーターこそがそれである。

ゴルフバッグ以外にも少なからず荷物を携行することが多いゴルファーにとってオープン2シーターは最も縁遠いクルマと言えるかもしれない。

だが一般的に考えるならば実用性に欠ける贅沢なクルマは、ファーストカーに続く2台目以降の選択肢であるに違いない。5人乗りの立派なファミリーカーが既にガレージにいるのであれば、買い足すべき1台には異なる個性を求めたい。

自らの趣味性や人生観を反映させたモデルこそがクルマ遊びにおける贅沢なのである。

オープン2シーターは決して数多く売れるクルマではないのだが、いつの時代も一定数が存在している。固定式の屋根を備えたスポーツクーペから派生したオープントップ版である場合がほとんどである。

布製やスチール製の屋根を開閉できるオープンカーは優雅なイメージで通っているが、スポーツカーの場合はその原点を辿っていくと戦前のレーシングカーへと行き着くことになる。

それは屋根すらも必要としないミニマリズムの具現化であり、重心が低くなるために運動性能も高まるのである。

現在新車で販売されているオープン2シーターは2種類に大別できる。スーパースポーツカーやスポーツクーペを屋根開きにすることでラグジュアリーな印象を付け加えたフェラーリ488スパイダーに代表される一群と、ロータス・エリーゼやケータハム・セブンといったストイックなまでに余計な重量を削り取り、スポーツドライビングに特化したモデル群である。

クルマ選びに一家言あるマニアに言わせれば2グループにははっきりとした違いがあるのだが、ゴルファーにとっては大した問題ではないだろう。

どのモデルも乗車定員は2名だが、2本のゴルフバッグをラゲッジスペースに積むことは叶わないのだから。

実際にオープン2シーターでカントリークラブを目指すとなれば、1人乗りで助手席にゴルフバッグを横たえるスタイルが一般的となる。

オープン2シ-ターはドライビングを愉しむためのクルマなのだから、早起きをして幌を降ろし、空いている道を駆け抜けるぐらいの心の余裕が必要となる。途中の駅で誰かを拾ったりするわけではないスタイルは気ままでスマート。

いざカントリークラブに到着すれば、保守的なボディカラーを纏ったセダンの中に、原色のオープンカーがポツンと混じっている図が痛快ですらあるはずだ。

セカンドカーであるオープン2シーターを選ぶ愉しさは、必要要件に縛られて保守的なチョイスに落ち着くことが多いファーストカーのそれより遥かに愉しいものだ。

また'90年代中頃以降のオープンモデルは、電動で屋根が開閉するタイプが一般的となっており、雨漏りの心配もなくなっている点も朗報といえる。

都心部を走っているような時でも、流れの良いところはオープントップで流し、渋滞にハマったら屋根を閉じてエアコンで快適に過ごすといったこともあたり前にこなせるのである。

現在販売されているオープン2シーターを思い浮かべてみると、スポーツカーブランドの多くが当然のようにそれをラインナップしていることがわかる。前述のようにゴルファーにとっては乗員1人ゴルフバッグ1本が基本となるので、どのモデルも大差ないと言い切ることもできるが、もちろん価格にはけっこうな幅がある。

5千万円近いランボルギーニもあれば、その10分の1ほどのアバルト124スパイダーのような身近なモデルも存在するのである。

総じて走りを重視しているオープン2シーターだが、その成り立ちによって走りの個性は様々である。

一般的なクーペの屋根を取り去ったモデルであれば、低下したボディ剛性を補うための補強が入ることが一般的だが、ロータス・エリーゼやマクラーレン570Sスパイダーのように、もともと屋根の剛性に頼らないオープンボディ専用のシャシーを持っているモデルはよりシャープで純粋なドライブフィールを愉しむことができる。

対候性に優れ、容易に開閉できる屋根のお陰で随分と身近な印象を帯びてきたオープン2シーターだが、モーガンやケータハムのように、半世紀以上も基本設計の変わらない伝統的なモデルも存在する。

これらのモデルはマニュアルトランスミッションしかないのでドライビングも古典的だが、幌の作りも古式ゆかしい。

オープンの状態が正しいスタイルであり、幌を掛けるのは大雨が降って来たような緊急時のみという考え方なので、モダンなオープンモデルよりはるかに苦労を伴うが、現代車が失ってしまったドライビングプレジャーの多くを持ち合わせてもいるのである。

今回はオープン2シーターとして枠を絞って考えたが、4シーターまで枠を広げれば、その選択肢はかなりの数に上る。だが敢えてシートのリクライニング角度すら満足にない2シーターモデルに限定した背景には、冒頭の「贅沢なクルマ」というコンセプトが関係している。

「贅沢」を「粋」という文字に置き換えてもいいだろう。これ以上何も差し引くことのできない必要最小限の構成という考え方に独特の様式美が宿るのはクルマ世界に限ったことではないのである。

万が一のため、と言っていつもカバンの中に日常の生活用具を詰め込んでいる人がいるが、その精神性をクルマに例えるならばワゴン車が近いのではあるまいか?

一方ミニマムな要素でスマートに、そして時に優雅に暮らしをしている人のそれはオープン2シーターに近い。クルマがすっかり便利な道具に成り下がってしまった現代にあって、屋根開きのクーペは粋なオトコの証明でもあるのだ。

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