リヤドロ ジャパン代表取締役社長 兼 アジアパシフィック・オセアニア総支配人 麦野 豪 x 戸賀敬城 対談「神が宿るゴルフ場を訪ねて」

オヤジのやるものと思っていたゴルフ

戸賀敬城(以下、戸賀):初めてお会いしたのは、麦野さんがモンブランの役員を務めていた時代。僕は「MEN'S EX」の編集長でした。まさかこうやってカメラ数台を前に対談をするなんて思ってもいませんでした。2017年11月から僕は「BRUDER」のスーパーバイザーを務めています。ゴルフはもちろん、クルマ、時計など、色々とコンテンツを増やしているところです。そして、今回「Off the green」という、本物を知る男にゴルフを中心にお話を聞く対談企画がスタートしました。その最初のゲストとして麦野さんをお迎えしました。早速ですが、ゴルフをいつ頃から始めたんですか?

麦野 豪(以下、麦野):大学卒業後、商社に入ったんですね。僕らの時代は周囲のオヤジ達がみんなゴルフをやっていたこともあって、なかなか好きになれなかった。何かあればゴルフをやって、話題と言えばゴルフのみ。それもあって、当時はゴルフを馬鹿にしていたんですよ。

戸賀:僕も一緒です。

麦野:あれは「オヤジがやるもの」という感じだった。それなのに、ある日、取引先で上司たちがゴルフ談義をしていて、「麦野君もやりなよ」と言われたんです。断ったけれど、強引に誘われてコンペに参加。「3週間後にスクラッチでやるから」って言われても、スクラッチの意味すら分からない(笑)。それでいくつ叩いたかなぁ……。結構負けたんですよ、当たり前ですけど。

戸賀:楽しかった? それとも悔しかったんでしょうか?

麦野:全然楽しくない(笑)。年下の初心者をつかまえて、何やってるんだと思いました(笑)。内心、「これはスポーツじゃない」って悪態ついてましたよ。

戸賀:どのタイミングで考え方が変わりましたか?

麦野:その後、僕はアメリカのシカゴに駐在したんです。あそこは近郊に300くらいコースがある。夏になると、朝出勤前にハーフをプレイして、仕事を終えてから残りのハーフを回れました。それくらい恵まれた環境で、たくさんプレイをした。向こうではゴルフが、れっきとしたスポーツなんです。アメリカで初めてゴルフをスポーツとして楽しいと思ったんです。

戸賀:それはおいくつの時ですか?

麦野:27歳の時ですね。以来、ゴルフにすっかりはまってしまった。シカゴは冬が寒いからプレイできないので、ロサンゼルスへの出張をわざわざ作って、ゴルフをしたりもしましたね(笑)。

戸賀:当時、年間どれくらいプレイしていました?

麦野:冬はそんなにできないから、60~70回くらいかな。

戸賀:そこでベストスコアが出たとか?

麦野:ベストスコアは日本に帰ってからです。80台は出たんですけど、なかなか80台前半にはいけなくて。帰国後は仕事が忙しくなって、なかなかプレイできなかったんですが、前の仕事時代にゴルフに力を入れたこともあって、かなり行きましたね。今は82がベストです。

ゴルフがラグジュアリスポーツだからこそ

戸賀:僕が「麦野さん=ゴルフ」というイメージを持っているのは、この成田ゴルフ倶楽部にも飾ってありましたが、いろいろなクラブハウスに、AP(オーデマ ピゲ)の時計が飾られているからです。APを見るたびに、「ここも麦野さんが回ったんだなぁ」と思ってました。現在、いろいろなブランドが同じようなことをしていますよね。

麦野:そうですね。僕が得意とするのはブランドのリブランディング。ペンのみを展開していたモンブランが、ラグジュアリーライフスタイルブランドに変わりたいという時に、戦略を変えたりしました。オーデマ ピゲは日本の時計業界で「3大時計ブランド」と言われていたけれど、その3大時計の定義を誰も答えられなかったんですよ。

売り上げならば、ロレックスの方が上だし、歴史だけならば、もっと古いブランドがたくさんある。それではオーデマ ピゲに何があるのか? 「なぜオーデマ ピゲでなくてはならないのか?」を、考えなければならない。例えば、以前はデパートの外商部がお客様に3大時計を並べて「ヴァシュロン・コンスタンタンを買われたから、次はパテック・フィリップ。最後にオーデマ ピゲを買ったらアガりですよ」という売り方をしていました。でも、お客様はそれぞれの時計の違いが分からない。それはまるでロールス・ロイスとフェラーリを並べて「どっちにしますか?」って聞いているようなものなんですよ。

高級だから世界3大時計ではなく、「オーデマ ピゲはどんな時計なのか」という、ライフスタイルを見せなければならない。そのために、ひとつのセグメントを構築して、そこで王者になるしかないんです。僕は「King of Luxury Sport watch」というのを作りたかった。そして、ラグジュアリースポーツが何かを考えたら、海外ではアメリカズカップがステータスを持っていますが、日本はヨットをあまりやりません。ならばF1かゴルフになる。日本だとゴルフが一番盛んだろうと……。 そこで名門と言われているクラブに仕掛ければ、強いイメージ付けができると考えたんです。

戸賀:しっかり根付きましたよね。「APと言えば、ゴルフ」というイメージが周知されたのはもちろんですが、「麦野さん=ゴルフ」というイメージもつきましたよ(笑)。

神がかっていた、聖地セントアンドリュース

戸賀:麦野さんといえば、ファッションへのこだわりも聞きたいです。今日もですが、ニッカポッカが多いですよね。ニッカポッカはいつ頃から取り入れたんですか?

麦野:2016年5月にスコットランドに行ったんです。ゴルフの聖地、セントアンドリュースを訪れました。一生に一度は行きたい場所がいくつかある中で、ここは最も行きたい場所でした。言葉には出来ない感動がありましたよ。行ったことはありますか?

戸賀:ないんですよ。

麦野:絶対に行った方がいい。もう神がかってる。現地の教会に入った時、ゾクゾクする神聖な何かを感じましたからね。よく「神が宿る」という言い方があるけれど、本当にそんな雰囲気がありました。ゴルフ場だけでなく、街全体の空気が違う。

戸賀:何がそんなにすごいんでしょう?

麦野:何がすごいって、行かなきゃ分からない(笑)。僕には説明できない。世界中から聖地を求めてやってくるゴルファーに、一生の思い出を残して帰すんです。コースも、キャディも、ホテルも、街中のバーまでもがゴルフに関わっている。 人の手では絶対に作れない何かがありました。積み上げてきた歴史ですね。そして、向こうの人たちは、みんなニッカポッカをはいているんです。日本ではなかなか売ってないから、現地でいくつか買ってみたんです。履いてみると、なるほどゴルフのためのユニフォームと言われるのも納得でした。

向こうはブッシュが長いこともあって、入って行くと足がやられるわけです。だからニッカポッカにハイソックスを合わせたりする。動きやすいし、雨が降ってきてもズボンが濡れることはない。それにコーディネートも楽です。シャツを合わせて、寒かったらセーターやジャケットを着ればいい。

あと、日本ではできないけれど、寒い日にはコースを回りながらウィスキーをちびちび飲むんですよ(笑)。海風が強いから、5月でもすごく寒い。それでウィスキーを飲むと、体中がカーっと暖かくなる。またラウンドしていると、冷たい風が吹いて酔いが覚めると。そして、また飲む(笑)。それが本当に美味しい上に楽しくて……。それですっかりニッカポッカとスコッチが大好きになりました。絶対にオススメですよ。

戸賀:今のお話を聞くと、一番感動したコースはやはりセントアンドリュースですか?

麦野:セントアンドリュース以外にないでしょうね。プロのキャディがついていて、すごく褒めてくれるから、プレイも上手くなれるんですよ。それに地面が固いから、すごく飛びます。これだけ打ち込めるゴルフ場は日本にないでしょうね。みんないいスコアで上がっているんじゃないかなぁ。バンカーがかなり大変だったり、ラフがきつかったりするけど、とにかく楽しい。

戸賀:僕の知っている人も何人かラウンドしていますが、「一度はまわった方がいいけど、もう自分はいいかな」と、言っていた印象があります(笑)。

麦野:いや、絶対に行った方がいい。大好きなコースというよりも、人生で最も印象深いコースになりましたから。

人気のクラブから、カスタムメイドへ

戸賀:日本のコースだとどこが特に好きですか?

麦野:今回ラウンドした「成田ゴルフ倶楽部」も本当に素晴らしいコースでした。お気に入りは「東京クラシッククラブ」ですね。僕が考える素晴らしいコースの条件は、それぞれのホールの印象がしっかり残ること、そして14本のクラブを全て使わせることだと、勝手に思っています。それ以外に個人的に好きなのは「紫カントリークラブ すみれコース」、あとは「川奈ホテルゴルフコース」もいいですね。

戸賀:14本は、どんなクラブを選んでいますか?

麦野:ドライバーは「キャロウェイ XR」、東京クラシッククラブでフィッティングしてもらいました。アイアンは「JGR」がしっくりきたので使っています。あと思い入れが深いのは「マジェスティ」。40周年モデルなんですが、4番アイアンで200ヤードくらい飛ぶんですよ。

戸賀:クラブにもかなりこだわりがあるんですね。どんなタイミングでクラブを買い換えますか?

麦野:調子いいときに変えますね。調子がいいと、なんでも欲しくなってしまう(笑)。

戸賀:僕は逆に調子悪い時に全部入れ替えています(笑)。

麦野:調子がいいと、もっと欲がでてくる。ゴルフは調子を持続させるのが難しいスポーツです。練習しないと下手になるし、昔できたことでもすぐに忘れてしまう。調子が良い時は欲張りになるので、「あれしたい、これしたい」が出てきます。使った人からの「いいクラブ」という評判を聞くと、耳年増になってしまうのか、自分でも買ってしまいます(笑)。

戸賀:これまでのクラブ遍歴を教えてください

麦野:一番最初に使ったブランドは覚えていないですね。初心者時代はみんなが良いと言っていた「ビッグバーサ」でした。

戸賀:初代ですね?

麦野:そうそう(笑)。「PING」のアイアンもめちゃくちゃ流行ったでしょう?

戸賀:「PING EYE2」! 僕と一緒ですね(笑)。

麦野:その後は「キャロウェイ E・R・C2」かな? 当時は良い評判が立てば、誰もが同じクラブを使う時代でしたからね。

戸賀:「オデッセイ」には行きましたか?

麦野:いかなかった(笑)。今はしっかりフィッティングして、カスタムメイドになりましたね。テーラーメイドの時代になりました。僕自身、初めてフィッティングした時に、腑に落ちるものがあったんです。当たり前ですが、人のスイングは何万通りもあるし、身長も違えば、スタンスも違う。自分に合ったクラブで打ってみると、これまでいかに自分がクラブに合わせていたかが分かりましたね。

ミニバンではなく7シーターへのこだわり

戸賀:麦野さんはクルマ好きでもあって、当時の僕がやっていた雑誌の競合男性誌にも登場していましたよね(笑)。特に気に入ったクルマ、どの辺りからクルマに入り込んだかを聞きたいんですが……。

麦野:いろいろなジャンルがあるけれど、僕はずっとSUVです。大学生時代でしたけれど、SUVブームのハシリだった「いすゞ・ビッグホーン」って分かりますか?

戸賀:分かります、あの角ばったデザインのクルマですよね。

麦野:あのビッグホーンを「カッコいいなぁ」と思って乗っていました。その後、アメリカでカルチャーショックを受けたのが、ラグジュアリーSUVとして登場した初代「ジープ・グランドチェロキー」。このグランドチェロキーが、現在まで続くラグジュアリーSUVの元祖ですよね。即決で買って、アメリカで乗っていました。帰国後もSUVが多かったですね。家庭を持って子供ができると、荷物も多くなるし、SUVが便利なんですよ。さらに親も一緒に移動するとなると、7シーターが便利で仕方がない。その唯一の選択肢が、初代ボルボXC-90でした。

戸賀:まさにXC-90と一緒に掲載されていた記憶があります。

麦野:荷物もたくさん載せられるし、便利なんですよ。でも、唯一の難点が少し野暮ったいデザインでした。そんな時、アウディQ7がデビューした。「これだ!」と思って、すぐに乗り換えました。でも、XC-90と比較すると、少しリヤシートが狭い。3列目を使おうとすると、何も荷物載せられない。しばらくQ7に乗り続けていたんですが、ボルボXC-90が素晴らしくカッコいいデザインにモデルチェンジしたんですよ。

戸賀:現行モデルは、内装も素晴らしいですよね。

麦野:外観もいいし、内装も素晴らしい。ボルボが初めて本気のラグジュアリカーを出してきたと思いました。機能的にも最高だけど、まさかまたボルボに戻ると思わなかった(笑)。

戸賀:ゴルフ場に行くまでの運転時間はどのように過ごしていますか? 考え事をしているのか、それともドライビングに没頭しているのか?

麦野:今のクルマは携帯電話と接続できるし、音声認識も優秀なので、ハンズフリーで簡単に通話できてしまう。移動中くらいしか、じっくりと電話もできないので、特にゴルフ場から帰宅する際は、電話をしているうちに家に着いてしまう感じです。

戸賀:オフィスの延長のような感じですね。麦野さんは乗馬もするし、先ほどのお話だと、家族のためのクルマとしても活用してそうですね。

麦野:優秀です。以前のモデルと比較するとワイドになったので、スペースにも余裕があります。

戸賀:そういえば、十分荷物も積めそうなのに、ルーフボックスも使っていますよね。

麦野:こう見えて、畑仕事もやったりするので、いろいろな道具があるんですよ(笑)。

戸賀:まさかスコップが入っているとか(笑)?

麦野:クワとかね(笑)。長靴など、畑仕事用の道具も入っています。あのルーフボックスに、びっくりするくらい搭載できますよ。ちょっとしたキャリーケースならば余裕です。

戸賀:クルマに関する必需品、こだわりの道具はありますか?

麦野:めちゃくちゃ重宝しているのは、ハワイで買ってきた、iPhoneの充電もできる車載ホルダーですね。海外出張でレンタカーに乗る場合は必ず持って行きます。海外ではGoogleマップをカーナビゲーションとして使っているんですが、携帯電話を置く場所に困るんですよ。

戸賀:XC-90はかなり気に入っているようですね。次のターゲットは入ってこない感じですか?

麦野:今や様々なメーカーから、ラグジュアリーSUVが発売されていますよね。ジャガーやベントレー、マセラティまでSUVをラインナップしています。マセラティ・レバンテがデビューした時はかなり悩みました。でも、やっぱり5人乗りというのがネック。マセラティを取るか、家族を取るかでした(笑)。7シーターもXC-90以外に、アウディやレンジローバーもありますが、もっとチョイスが増えて欲しいですね。確かに大人数が乗るならばミニバンもあるけれど、あれをドライブしている自分は想像できない(笑)。

戸賀:ミニバンには踏み込めないわけですね。確かに僕が知っている「エロジュアリー」な麦野さんには、ミニバンを選んで欲しくないな(笑)。

麦野:でしょう? 後部座席からサングラスをかけて降りてくる分にはいいんだけど……。

戸賀:やはり僕らのコンセプトに「スポーツ」は欠かせませんね。SUVの「S」はスポーツの「S」ですから。

ブランドの世界観に共感し、時計を選ぶ

戸賀:BRUDERは新たなコンテンツとして、コンテンツに「腕時計」を加えたんですよ。

麦野:いいですねぇ。

戸賀:麦野さんは、今やリヤドロの顔ですが、前職のAPについても、しっかり聞きたいところです。現在のスポーツラグジュアリーウォッチを定着させたのがAPで、仕掛けたのがまさに麦野さんです。様々なブランドが、現在ではスポーティな時計をラインナップしています。そのムーブメントの火付け役でもあった麦野さんが、特に思い入れを持っているスポーツラグジュアリーウォッチを教えてください。

麦野:まず「ラグジュアリーとは何か?」を考える必要があります。これはすごく深いテーマです。時計は「時を知るための道具(GOODS)」だけど、この道具に「ラグジュアリー」が付くと付かないでは、何が違うのか。道具に必要とされるのは、時計であれば時を計る機能。ペンであれば、字を書く機能です。機能は英語で「function(ファンクション)」だけど、ファンクションだけを必要としているならば、携帯電話があれば十分。ペンだって100円のボールペンで事足ります。では、どこが「ラグジュアリー」かと言えば、ファンクションに対して、エモーションを与えられるかだと考えています。「持つことへの喜び」や、「このブランドに相応しい人でありたい」というエモーションを与えられたことが、ブランドが持つ価値。その価値が高ければ高いほど、ラグジュアリーだと思っています。

戸賀:そんな麦野さんが選ぶ時計は?

麦野:どのような時計を選ぶかは、自分の世界観につながります。そのブランドの世界観に共感できるか。よく聞かれる質問に「どんな時計を選べばいいのか?」というのがあります。でも、「こうしなければならない」というルールはありません。今はブランドの数も増えているし、機能はどれも素晴らしい。良い素材を使っているし、高いクオリティが当たり前です。だからこそ、選ぶ理由にブランドの価値観や哲学に共感できるかが入ってくる。

PROFILE : リヤドロ ジャパン株式会社 代表取締役社長 兼 アジアパシフィック・オセアニア総支配人 麦野 豪(むぎの・ごう)

1965年12月30日生まれ。成蹊大学卒後、総合商社に入社。アメリカ・シカゴ駐在を経て、日本に帰国。「モンブラン」や「オーデマ ピゲ」など、外資系企業で様々なブランドのリポジショニングを手がける。2013年からリヤドロジャパンの社長に就任し、現在に至る。初代愛車は日産スカイライン(ケンメリ)、その後はいすゞ・ビッグホーン、ジープ・グランドチェロキー、ボルボXC90、アウディQ7などをSUVを中心に乗り継いでいる。

撮影協力:
成田ゴルフ倶楽部
衣装協力:

Admiral Golf(株式会社ヤマニ)

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