フェラーリ×ゴルフという線はアリ。フェラーリGTC4ルッソ

フェラーリとゴルフは、ともに特別なウィークエンドを演出する存在でありながら、交わり合うことがないように思われる。だが、フェラーリには伝統的にGTモデルをラインナップしており、現行モデルのGTC4ルッソはフェラーリの傑出した個性に高い実用性をプラスした存在として知られている。フェラーリ×ゴルフという線はアリなのである。

フェラーリに乗ってどこか行かない? と誘われたら、老若男女を問わず「ぜひ!」と即答するに違いない。けれどその「どこか」がカントリークラブだったとしたら、尻込みしてしまう人も多いと思う。2人乗りのフェラーリでゴルフに行く、という行為は2本のゴルフバッグのことまで含めると不可能に思えるし、もし実現したとしてもいかにも辛そうだ。ポルシェの成功にあやかり、現代ではアストンマーティンやランボルギーニまでもがSUV開発に手を染める時代だが、フェラーリは頑なにSUV開発を拒んでいる。そこにはスポーツカーの頂上ブランドとしてのプライド以外に、彼らなりの解答がすでに示されているからという理由もある。そのままレースに出られるようなミッドシップの2シーターのスポーツカーがフェラーリのイメージリーダーである事実は変わらないが、一方で同社は古くからフロントエンジン4シーターのGTモデルをラインナップし続けている。現行モデルで言えばフェラーリGTC4ルッソがそれにあたる。

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フェラーリ「GTC4ルッソ T」は優雅なだけでは満足しない。伝統的で優雅な4シーター・ボディを湛えたGTモデル。V8ターボエンジンを搭載。跳ね馬の常識を塗り替える1台である。

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フロントエンジン、2ドア、そしてハッチバックスタイルのリアを組み合わせたフェラーリGTC4ルッソのボディは、分類上は「ハッチバック」と表現するべきものかもしれない。だが実車の堂々とした体躯を目の当たりにすればその呼び名が似つかわしくないことはすぐにわかるはずだ。実に690psを発生する6.3リッターのV12エンジンを搭載する長くて鋭いボンネットのシェイプと、滑らかなルーフラインがリアエンドでスパッと切り落とされる美しいスタイリングの妙。ヨーロッパでは伝統的にこの手のモデルをシューティングブレークと呼んでいる。ラゲッジスペースにライフルを積んでハンティングに出かけるためのクルマという意味である。もちろん積み込む荷物はエレガントな長物であれば何だっていい。フライフィッシングのロッドやアイスホッケーのスティック、そしてもちろんゴルフバッグを積むのも正解といえる。

では実際のところ、GTC4ルッソのラゲッジスペースはどのような作りになっているのか? コクピットエリアを見るよりも先にフェラーリの象徴的なエンブレムが据えられたリアハッチを開けてみた。それは、フェラーリのラゲッジエリアとして考えれば“広大な”という表現が許される空間だが、フロアには燃料タンク等の出っ張りもあるので、リアシートを起した状態ではゴルフバッグを積み込むことは難しい。だが、3分割のリアシートバックを倒せば奥行きのあるスペースが生まれ、縦方向に2本のゴルフバッグ(写真では1個だが、リアシートを倒せば2個積載可能)が入る以外にプラスアルファーの荷物を積み込む余裕も残されている。通常の状態のラゲッジスペース容量は450リットル、リアシートバックを倒せば800リットル近いスペースが現れることになる。これだけの荷室に加え駆動系に独自の4WDシステムを内包しているのだから、GTC4ルッソは伝統的なGTフェラーリでありながらSUVの領域までをカバーするモデルなのだと言っていい。だからもちろん、パートナーと2人で行くゴルフ旅にも充分に対応している。※冒頭で表記のある(乗車人数2名+キャディバッグ積載2個)は、キャディバッグ積載時の最大乗車人数を表記している。

フェラーリといえばF1マシーンをイメージさせる赤いボディカラーが有名だが、4シーター・フェラーリは赤以外のカラーを纏っていることも珍しくない。例えば、今回の個体のようにビアンコアブスと呼ばれる眩しい白のボディに、紺色の革内装という組み合わせもGTフェラーリの定番といえるシックなコンビネーションである。フェラーリの内装はスポーツカーとしてはもちろん、自動車全体として見た場合でも飛び切り上質な部類に入る。最上級の革素材が、シートのみならずインテリア全体にたっぷりと用いられ、滑らかにカーブを描くシートやドアインナーの形状に合わせて精緻なステッチが走る。フロント、リアともにシート形状はセミバケットタイプで、乗員の体を適度にホールドしてくれる。リアシートは座面の大きさやヘッドクリアランスも充分だが、足元スペースも広く確保されているので、2ドアでありながらフル4シーターを名乗る資格がGTC4ルッソには充分にある。

ステアリングホイール上の赤いスタートボタンを押し込み、6.3リッター自然吸気V12エンジンを目覚めさせる。独特の力強い排気音が周囲に響き渡り、スロットルを踏む右足の動きにエンジン回転が鋭く反応する。レシプロエンジンは気筒数が多いほど回転が滑らかに、そして高回転まで気持ちよく回る傾向があり、フェラーリの代名詞でもあるV12エンジンはその究極といえる。近年、自動車のパワーユニットはライトサイジングブームの影響によって4気筒ターボ・エンジンが幅を利かせている。そんな時代だからこそ、贅を尽くしたフェラーリV12の存在感がこれまで以上に際立って感じられるのである。ゴルフバッグはすでに積み込んである。センターコンソールに配されたAUTO(ドライブ)のスイッチを押し、GTC4ルッソで早朝の街へと走り出す。ギアボックスは7段のF1-DCT(デュアルクラッチ)だが、基本的にはセミオートマなので街中を滑らかに走ることもできる。ステアリング裏のパドルシフターを操ってV12エンジンのパワーを味わうのは高速道路に入ってからだ。

フェラーリGTC4ルッソは、先代のフェラーリFFというモデルの後継となる。FFはフェラーリ・フォーを意味しており、4輪駆動であることを表している。4RMという独自のAWDシステムは4速以下で走っている時、必要に応じて前輪に駆動させるオンデマンドタイプの4駆であり、ゆったりと走らせている限りこれまでのフェラーリとおなじく後輪駆動となる。先代のフェラーリFFからの進化は30psのパワーアップやスタイリングの刷新など数多あるが、印象的なギミックは後輪操舵システムで、これを加えたことでフェラーリ特許の4RMは4RM-Sにアップデートされている。後輪操舵は駐車の際の小回りにも効くが、全ての速度域をカバーしておりGTC4ルッソのような大型のボディをクイックに旋回させる能力にも長けている。インターチェンジのタイトなコーナーを抜ける時、積極的にリアタイヤが旋回を助けている様子がはっきりと伺えた。コーナーの出口が近づいてきたところでスロットルを開けていくと、フェラーリV12特有の官能的なクォーンという甲高い排気音が響き、猛烈な加速を見せる。

体がシートに押し付けられるようなフルスロットル時の加速は僅かに残っていた眠気を完全に吹き飛ばすほどのインパクトがあるが、それでもGTC4ルッソのドライブフィールで驚くべきは、軽く300km/hをオーバーする実力と快適性能の共存にある。走りに合わせて硬さを変化させる電子制御のショックアブソーバーと大パワーを効率よく路面に伝える4輪駆動システム、そして強固なボディの組み合わせにより全域にわたって乗り心地が良く、また不快なノイズは室内に一切入り込んでこない。このため、カントリークラブまでの道程でハイスピードクルージングに興じてもスピード感はあまり感じられない。あくまでルッソ=ラグジュアリーというネーミングに忠実なのである。いつもはシートを寝かし気味にしてひと眠りしてしまう様なパートナーでも、助手席の正面に据えられたタッチパネル式のパッセンジャーモニターでオーディオを操り、最新のフェラーリによるショートトリップを楽しんでもらえるだろう。もちろんダッシュパネル中央のモニターが表示するナビゲーションも賢く、カントリークラブまでの経路を的確に案内してくれる。

ステアリング中央の黄色いプランシングホース(跳ね馬)と対峙しながらのドライブはやはり特別な体験といえる。普通に走らせているだけでも大いに気持ちが高まるし、カントリークラブへと続くワインディングでひと汗かけば、すっかりウォームアップが完了し、1番のティーグラウンドに立つ頃にはアドレナリンと冷静な感情がちょうどよくバランスしているのである。ドイツ製のセダンに乗ってクルーズコントロール任せでカントリークラブを目指す安楽さも捨てがたい。けれども待ちに待った休日は爽快にゴルフを楽しむだけでなく、その行き帰りの移動時間も充実させたい。GTC4ルッソは、そんな夢物語を高い次元で実現してくれる究極のスポーツカーなのである。従来のフェラーリのイメージからすると落ち着きがあって実用的で、しかし伝統的なV12エンジンが放つ官能性には一切妥協を含まない。フェラーリはおろかスポーツカーすら愛車の選択肢に入れていないゴルファーが多いと思うのだが、時代は刻々と変化している。フェラーリとゴルフの融合が、GTC4ルッソならば成立するのである。

Ferrari GTC4Lusso
メーカー希望小売価格:34,700,000円(税込)

  • ボディサイズ | 全長4,922 × 全幅1,980 × 全高1,383mm
  • ホイールベース | 2,990mm
  • エンジン | V12気筒DOHC(4バルブ)エンジン
  • 排気量|6262cc
  • 最高出力 |690ps(507kW) / 8,000rpm
  • 最大トルク | 697N・m / 5.750rpm

bruder.golfdigest.co.jp

問い合わせ先

フェラーリ・ジャパンTEL:03-6890-6200https://www.ferrari.com/ja-JP

ジョーンズスポーツ(キャディバッグ) ニーディープ : Tel 03-5422-6421 http://www.kneedeep.jp

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