大人はHalloween読書でココロと向き合う

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・及川貴子さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

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『幽霊たち』ポール・オースター

死者の霊がこの世を訪ねてやってくるハロウィンが近づいてきました。今回は、一風変わった幽霊たちが登場する物語をご紹介します。

主人公はブルーという名の独立したての探偵で、ある日ホワイトという男から「ブラックという男を、いいと言うまで見張ってくれ」と依頼を受けます。ブルーは訝しげにこの依頼を引き受けますが、本当に不思議なのはここからでした。

ブラックには、変わったところが何ひとつないのです。ブラックの部屋を毎日見張っていても、ノートに何かを書いたり散歩をしたり、時々買い物をして食事をするだけ。それを見張り続けるブルーはやがて退屈し、だんだんと自分の心の中の世界へと思いを巡らせ始めます。

――これまでブルーには、何もせずじっとしている機会がほとんどなかった。(中略)彼は、自分がただ単に一人の他人を見ているだけでなく、自分自身をも見つめているのだということに思いあたる。人生のスピードが急激に遅くなったせいで、ブルーはいまや、それまで気がつきもしなかったさまざまな事物を見ることができる――

――本文より

何も起こらないブラックの日常を見張るブルーの、何も起こらない生活。それを読んでいる私たちも、いつの間にか自分の心や記憶と向き合っています。さて、幽霊たちの正体とは? ぜひ作品を読んで確かめてみてください。

『幽霊たち』ポール・オースター、柴田元幸訳(新潮社)/¥539(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 及川貴子

2018年日本出版販売入社。2022年4月より文喫 六本木副店長兼ブックディレクターとして、企画選書や展示イベント企画、本のある空間のプロデュースなどを行う。

Edit : Junko Itoi

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