より良く生きるヒントを『プラネタリウムのふたご』で探す

友人からでも、家族からでも、書評でも、課題図書でもない「オススメの本」を読んだことはありますか? 現実と少し距離を置く“小説の世界”への入り口は、時に不意の方が新鮮で心踊りそう。東京・六本木の本屋「文喫 六本木」のブックディレクター・及川貴子さんにBRUDER読者をイメージした一冊を選んでもらいました。

『プラネタリウムのふたご』/いしいしんじ

「だます」「だまされる」は、どちらもあまり良いイメージのない言葉として響きます。しかし、この長編小説の主人公は言います。「ひょっとしたら、より多くだまされるほど、ひとってしあわせなんじゃないんだろうか」と。

物語の舞台は、工場に囲まれた山間の村。そこでは、プラネタリウムが数少ない娯楽のひとつです。ある時プラネタリウムに捨てられていた美しい双子の男の子は、それぞれ村の郵便配達人兼プラネタリウムの案内人と、外の世界を旅する手品師になります。彼らが時に深く傷つきながらも出会い、紡ぎだす人生の嘘と真実は、私たちに、より良く生きるためのヒントを次々と与えてくれます。

だまされる才覚がひとにないと、この世はかさっかさの、笑いもなにもない、どんづまりの世界になってしまう

ただ、あえないったって、姿が見えないだけのことだからね。ぼくはつまるところ、きみのまわりのあらゆるところにいる

――本文より

どんなに空が曇っていても、その上に星があることを私たちは知っています。それは日々の中の希望も同じです。そのことを信じられるのなら、実際に星が見えるか見えないかは、どちらでもいいことなのかもしれません。七夕の夜に、ひと時顔を上げ、あるいは目を瞑り、心の中に輝く星を思い浮かべてみませんか。

『プラネタリウムのふたご』いしいしんじ(講談社)/¥880(税込)

COOPERATION

文喫 六本木 副店長/ブックディレクター 及川貴子

2018年日本出版販売入社。2022年4月より文喫 六本木副店長兼ブックディレクターとして、企画選書や展示イベント企画、本のある空間のプロデュースなどを行う。

Edit : Junko Itoi

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