アウディのBEV(ピュアな電気自動車)から、初のコンパクトSUVモデルとして誕生した「Q4 e-tron」。日本では2022年秋以降を予定している発売を前に、いち早く日本に入ってきた欧州仕様の車両に試乗することができたので報告したい。
結論から述べると、このクルマは“新しいモノ感”に満ちており、次の時代の乗り物という雰囲気がビンビンと伝わってきた。 まず、フォルムが新しい。真横から見るとダックスフントのように胴長で、前後のオーバーハング(タイヤの中心よりも外側にかぶさるようにはみ出した車体)が短い。これは、MEB(モジュラー・エレクトリックドライブ・マトリクス)というBEV専用の基本骨格を採用していることによる。 かさばるエンジンを、フロントに積まないことを前提に設計されているので、結果としてホイールベース(前輪と後輪の間隔)を長くすることができ、室内が広くなっている。クルマのサイズ自体はアウディ「Q3」と「Q5」の中間になるが、後席の広さはフラッグシップの「Q7」と同等だという。エンジンとそれに付随する冷却水や、オイルの配管などが不要となるBEVは、スペース効率の面でも有利なのだ。
細かいことであるけれど、エンジンを冷やすための風を取り入れる機能がいらなくなったフロントグリルは、ただのパネルになっている。このあたりにも新しさを感じる。乗り込んでみると、アウディがこのクルマの見せ方にこだわっていることがすぐにわかる。ステアリングホイールは上下がフラットな形状になっているし、センターコンソールが宙に浮いているように見えるなど、演出が効いている。いざ走り出してみると、「見せ方」や「演出」だけではなく、走行フィールも新しいことを体感することになる。
スタートして真っ先に感じるのは、心地よさだ。ふんわり、しなやかで、ボディとサスペンションが路面からのショックを上手に吸収してくれる。BEVらしい静かでシームレスな加速感とあいまって、実に上質な味わいだ。興味深いのは、市街地では高級なソフトクリームのように滑らかなのに、速度が上がると讃岐うどんのような、しっかりとしたコシの強さを感じることだ。路面からのアタリのやわらかさはそのままに、コーナーでもぐらりと傾いたりしない。低速ふんわり、高速しっかりというフィーリングは、やはりMEBが大きく貢献していると推察する。
重たいモノをボンネットに収めるエンジン車とは異なり、BEVはバッテリーを床下に敷き詰める構造になるため、背の高いSUVであっても低重心に設計できる。重心が高いとコーナリング時のロール(横傾き)を抑えるために足回りを固める必要が生じるけれど、重心が低ければ不要となる。MEBという基本骨格からBEVの特徴を最大限に活かすような設計になっているから、これまでのエンジン車とは異なる乗り心地やコーナリング姿勢が実現しているのだろう。個人的におもしろいのは、このクルマが後輪駆動ということだ。これは新しいというわけではないけれど、後輪駆動のアウディ車に乗ったのは初めての経験だった。
これまでのアウディは、主にFF(前輪駆動)とクワトロ(4輪駆動)のモデルを作ってきた。エンジンをフロントに積む場合、その動力を後輪に伝えるには前後にプロペラシャフトを通す必要があるため、前輪駆動のほうが部品点数を少なくすることができて合理的なためだ。けれどもコンパクトなモーターで駆動するBEVはその常識に従う必要がない。
さすがに最新モデルだけあって、最高出力204psのモーターをフル回転させても後輪が暴れるようなことはない。前輪に駆動力が伝わらないことによるすっきりとしたステアリングフィールに、後輪駆動のありがたみを感じる。見た目にしろ、乗り味にしろ、アウディQ4 e-tronは確実に次のフェーズに入りつつある。世界的にクルマの電動化が加速するなかで、BEVの日進月歩を感じる機会となった。
アウディ Q4 40 e-tron 車両本体価格: 599万円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4588 X 全幅 1865 X 全高 1632 mm
- ホイールベース | 2764 mm
- 車両重量 | 2050 Kg
- パワートレーン形式 | 後輪電気モーター
- 最高出力 | 204 ps(150 kW)
- 最大トルク | 310 N・m
- 一充電走行距離(欧州値)| 516 km
- バッテリー容量 | 82 kWh
Text : Takeshi Sato
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