真のクルマ好きに残されたマニアックな選択 ポルシェ「911カレラGTS」

「いつかは所有してみたいスポーツカー」。そんなアンケートをしたら、上位にポルシェ「911」が名を連ねることは想像に難くない。クルマ好きとしては、リアエンジンという今日では珍しくなってしまったレイアウトも気になる。そんな1960年代から続く伝統のモデルから、「911カレラGTS」が登場した。

どれだけ911に魅力を感じても、「キャディバッグを積む場所がない」との理由から、この王道スポーツカーを敬遠してきたクルマ好きゴルファーはいるはず。実際に無理なくキャディバッグを積むのであれば、助手席に寝かせて載せることになるわけだが、そうなれば「おひとり様」は確定だ。だが、いくら代替わりを重ねたところで、911のトランクにキャディバッグが2本収まる日は来ないだろう。それよりも、ガソリンを燃焼させて刺激的な快音を奏でる水平対向6気筒エンジンが、取って代わって電気モーターになるタイミングの方がもう間近に迫っている。

そんなちょっとした未来について思いを馳せたのは、今回の試乗車、赤いポルシェ911カレラGTSが7速のマニュアルトランスミッション(MT)を備えていたからだ。ポルシェ伝統の水平対向6気筒エンジンは多くのクルマ好きが認める究極の内燃機関。MTはその水平対向6気筒エンジンの魅力を目いっぱい引き出すための、やはり究極の機構といえる。今回の911カレラGTSが“究極の一台”に思えるのは、賢いATが全盛の昨今にあって、すでに絶滅危惧種となっているパワートレーンを搭載しているのがその理由だ。

911のモデルライフ半ばに登場することが多い「GTS」というグレードは、数ある911の中でも汎用性の高い、通が選ぶ一台といえる。ベーシックな「カレラ」や、公道を走るレーシングカーのような「GT3」、パワフルなターボといった個性派の911と比べると、GTSは装備をほどよく充実させたバランス重視のモデルだからである。

エンジンの最高出力は「カレラS」よりも30psを上乗せした480ps。サスペンションはPASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)を、排気系にはスポーツエキゾーストノートを標準装備している。外観は派手なエアロ等を装着せず、普通はシルバーに輝いているモール関係をブラックアウトしている点も差別化が効いている。また、ホイールがレーシングカーと同様のセンターロック式ということもクルマ好きの心をわしづかみにするはず。

911カレラGTSシリーズにはクーペの他に、カブリオレとタルガというボディ形式、そして2駆と4駆の駆動方式が用意されている。その中でもすっきりとして、しかしストイックなモデルが911カレラGTSだろう。つまり、クーペボディで2駆、さらにMTという組み合わせである。

ドアを開けると、スパルタンな光景が目に飛び込んできた。試乗車にはリクライニング機構がないオプションのフルバケットシートが装着されており、リアシートも取り払われていた。いよいよゴルファーに向かない仕様だったわけだが、これはバケットを選ばなければよいだけなので問題にはならない。911でドライブに行く。しかも久しぶりのMTといえば大いに緊張してもおかしくはない。けれど、7速MTによるシフトチェンジは、豊富なエンジントルクの助けもあって非常に行いやすい。例えエンストをしても心配はいらない。すぐにクラッチを踏み込めばアイドリングストップの機能が働いてすぐにエンジンが再始動するので、平静を装っていれば助手席のパートナーに「エンスト!」と察せられることもないはずだ。

今にはじまった話ではないが、911はただ速いだけではなくスタビリティ(走行安定性)も恐ろしいほど高いので、480psという最高出力にもひるむ必要はない。スタビリティが高いから、気づくと結構なスピードに達していて、結果的に目的地に速く着けるという911のスピードの方程式は、半世紀以上前から変わっていない。

スーパースポーツカー並みの動力性能を備えながら、乗り降りがしやすく、普段公道をドライブするぶんには気難しさもない。だから遠出だけではなく、駅までの送り迎えといったシーンでも気軽に“911で行こう!”と思える気さくなキャラクターも、このクルマの長年にわたる人気を支えている。

“キャディバッグは助手席に”というデメリットは最初からわかっているので、実際に手に入れてから「話が違った」みたいなことにはなりにくいはず。ガソリンエンジンの911カレラ、その新車のステアリングを握ることができる時間は限られてきているので、「いつか…」のような考えはしない方が賢明だろう。

ポルシェ911カレラGTS(7MT)    車両本体価格: 1868万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4520 X 全幅 1850 X 全高 1303 mm
  • ホイールベース | 2450 mm
  • 車両重量 | 1500 Kg
  • エンジン | 水平対向6気筒 ターボ
  • 排気量 | 2981 cc
  • 変速機 | 7速 MT
  • 最高出力 | 480 ps(353 kW) / 6500 - 7500 rpm
  • 最大トルク | 570 N・m / 2300 - 5000 rpm
  • 最高速度 | 311 km/h
  • 0-100 km/h | 3.4 秒

 

    • Text : Takuo Yoshida

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