F1構造と新システムの融合 ルノー「アルカナ」が切り開く新境地

優雅な弧を描くルーフラインや、肉感的な前後フェンダーのふくらみ。ルノー「アルカナ」と対面すると、獲物に飛びかからんとする野生動物のように精悍なフォルムに目を奪われる。このSUVのウリのひとつは、クーペ的なエレガンスと野性味を融合させたデザイン性の高さにある。

一方で、内に秘めたハイブリッドシステムの仕組みと、個性的なテクノロジーが生まれた背景も実に興味深かった。今回は、この2点を中心に紹介したい。運転席に座って、「E-TECH HYBRID」と呼ばれるハイブリッドシステムを起動する。この時点ではエンジンは始動せず、発進加速もモーターだけで行う。つまり、ヨーロッパ車の多くが採用するマイルドハイブリッドではなく、EV走行も可能なフルハイブリッド。ルノー・ジャポンの調べでは、現時点でフルハイブリッドシステムを採用した唯一の輸入車であるという。試乗会では短時間の乗車だったので燃費を計測することはできなかったが、資料によればWLTCモード燃費は22.8km/l。ただし、燃費の良さだけが「E-TECH HYBRID」の持ち味ではない。

まず、システムが非常に滑らかに作動するのが特徴。発進してから速度が上がると、1.6リッターの直列4気筒ガソリンエンジンが始動するけれど、エンジンの始動は極めて滑らかで、ショックも音も発しない。メーターパネル内の表示に注意していないと、エンジンの始動に気が付かないほどだ。高速道路やワインディングロードでは、アクセルペダルを踏んだ瞬間に加速するレスポンスの良さに感心する。一般的に、フルハイブリッドはアクセル操作に対するレスポンスが曖昧になる傾向があるけれど、アルカナの「E-TECH HYBRID」にはそれがない。踏めばパンッと前に出る。市街地など速度域が低いところではモーターが主役、速度域が上がるとエンジンが主役になり、しかもモーターとエンジンがシームレスに連携する。ドライブしていると、電気自動車とエンジン車の“いいとこ取り”といった印象を受ける。

では、省燃費とファン トゥ ドライブを両立した「E-TECH HYBRID」は、どのような構造になっているのか。パワートレーンを構成する三本柱は、E-モーターと呼ばれる駆動用のメインモーターと、HSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)というサブモーター、そして1.6リッターの自然吸気の直列4気筒エンジンである。これまでのフルハイブリッドは、エンジンとモーターの間にクラッチを設けるケースが多かった。EV走行をする際に、エンジンを切り離して効率を上げるためだが、「E-TECH HYBRID」にはクラッチではなく、歯車と歯車をガチッと噛み合わせるドグクラッチを用いている。これによってエンジンとモーターの連携がダイレクトになり、フルハイブリッド特有の曖昧さを感じさせないわけだ。

ドグクラッチとはレーシングマシンにも使われる技術で、素早くダイレクトに作動する一方、ショックを発生するという弱点がある。速ければなんでもOKというレーシングマシンではショックが許されても、乗用車では認めるわけにはいかない。ここで、エンジンの回転数をモーターに合わせる機能をつかさどるHSGが活躍する。これによって、電光石火のレスポンスと、段差やショックのない滑らかな加速を両立。なるほどその手があったのかと、ヒザをポンと叩きたくなるような発想だ。

このように独創的なハイブリッドシステムが生まれた背景には、ルノーと日産自動車、三菱自動車とのアライアンスがある。特にE-モーターの開発にあたっては、日産の技術が大きく貢献しているという。もうひとつ、ルノーがF1(フォーミュラ1)で培ったノウハウも寄与している。現在のF1カーはハイブリッド車で、担当エンジニアがアルカナの開発にも参画しているのだという。気持ちのいいスポーティな加速フィールは、F1譲りのものなのだろう。

つまりこのクルマは、アライアンスによるシナジー効果と、モータースポーツで得た知見から生まれている。アルカナとは、ラテン語で「ミステリー」や「神秘」を意味する言葉だという。けれども、アルカナの出来の良さはミステリーでも神秘でもなく、はっきりとした理由があるのだ。

ルノーアルカナ    車両本体価格: 4,290,000円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4570 X 全幅 1820 X 全高 158 mm
  • ホイールベース | 2720 mm
  • 車両重量 | 1470 Kg
  • エンジン | 直列4気筒 DOHC16バルブ
  • 排気量 | 1.597 cc
  • 変速機 | 電子制御ドッグクラッチ マルチモードAT
  • 最高出力 | 94 ps(69 kW) / 5600 rpm
  • 最大トルク | 148 N・m / 3600 rpm
  • メインモーター最高出力 | 49 ps(36 kW) / /1677 - 6000 rpm
  • 最大トルク | 205 N・m / 200 - 1677 rpm

 

    • Text : Takeshi Sato

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