クラブメーカーのアパレルを“ファッション”にしていく第一歩とは?

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おなじみのクラブメーカー「PING」のロゴ入りゴルフウェアが少し変化したことに、いち早く気づいた人もいるかもしれない。ゴルフウェアの人気ブランド「パーリーゲイツ」や「ニューバランスゴルフ」を手掛ける株式会社TSIが、日本でのゴルフアパレル企画・製造・販売に関するライセンス契約を2020年に締結し、「PINGアパレル」としてブランドを本格始動している。クラブメーカーのロゴ付きアパレルは、「お洒落より機能」の先入観も強いが…。2シーズン目に入ったTSIの担当者に、アパレルブランドとしてのビジョンを聞いた。(聞き手:大久保彩=BRUDER編集)

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中津留伸吾さん(左) 岡田崇さん(右)

―お二人のお仕事の概要を教えていただけますか?

岡田崇さん(以下敬称略:岡田):MDチーフとして、商品の企画から予算などの全体的な数字の管理、商品の構成や素材選びなどをディレクターと一緒に進めながらモノづくりをしています。


※MD…マーチャンダイザーの略。アパレル業界で、商品開発から販売計画立案まで一括して管理する“総合プロデューサー”的なポジション


中津留伸吾さん(以下敬称略:中津留):営業チーフとして働いています。社外と社内に向けて営業活動をして、PINGアパレルを知ってもらう仕事です。


―まずは、「PINGアパレル」を手掛けることになったいきさつを知りたいです

岡田:PINGはアメリカ発祥のブランドです。PINGジャパンさんは現在ギアだけですが、元々ウェアも生産していました。今回、ご縁があってゴルフアパレルを扱う弊社がPINGさんと契約を結ぶことになりました。2020年は発売場所を限定していたことやコロナ禍もあって大きな売り上げはなかったため、本格的にスタートしたのは2021年の春夏と捉えています。


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―ゴルフウェアで実績を重ねてきたTSIさんですが、今回の「PINGアパレル」商品開発で苦労していることはありますか?

岡田:「PINGのブランドイメージを崩してはいけない」というのがすごく難しいなと感じています。デザインを作り上げるときにアメリカのPING本社に承認を取る必要があり、米国にお伺いを立てながら進めていくのは僕らにとって初めての経験で、苦労したポイントですね。1年間やり取りを続けていく中で、米国の本社の方から「PINGというブランドに新しい風を吹かせてくれたTSIに感謝している」と言っていただけたのが、ものすごく嬉しくて、「苦労しながらもやってきてよかったな」と思いました。僕たちの取り組みを受け入れてくださったPINGさんに感謝です。


TSIさんが扱う他ブランドとの違い、という視点だと何がありますか?

岡田:ギアを持っていることですね! 唯一無二で、誇りに思っています。“ギアとのつながり”が武器だと思うので、PINGジャパンさんと相談しながらモノづくりの目線を合わせ、進めていくことを心がけています。会社の垣根を越えて一緒にブランドの世界観を作り上げることは難しいですが、協業できるというのは大きな強みだと思います。


中津留:実際に店頭では、キャディバッグの中にクラブを入れることができるようになり、クラブから会話が始まるという事例が多いです。そういう意味では、クラブも含めた空間の中で接客が始まって、PINGのギアユーザーに向けて幅広い販売トークができる点は、TSIで扱う他のゴルフアパレルブランドとは違う点だなと感じています。


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TSIさんが手掛ける「PINGアパレル」のビジョンとは?

岡田:PINGというブランドは真面目で、質実剛健というイメージがあると考えています。ブランドの核となる“真面目なモノづくり”を膨らませていくことが重要だと考え、素材や機能性、動きやすさにこだわりってモノづくりをしています。ただ、それだけではPINGジャパンさんがやっていた当時と変わらない。そこに+αとして様々なゴルフブランドを展開するTSIの楽しさ、ワクワク、エンジョイを注入していくことで、僕らがやっていく意味があるのではないかと思って取り組んでいます。


中津留:PINGはギアを持っているブランドなので、ギアのこだわりとアパレルのこだわりを掛け算してやっていけるのが強みだと思います。また、モノづくりの意志を継いで販売していく中で、お客様の声を聞いて商品開発に反映させるということはとても大切にしています。PINGのギアユーザーは、クラブ選びだけでなくアパレル選びにもこだわる方が多いため、着心地や伸縮性などについてご意見をいただいたら、すぐにMDに伝えて改善を依頼しています。


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―ギアが作り上げてきたブランドイメージ(世界観)をゴルフウェアで表現するのは難しそうですね…

岡田:いまMDをやっていて一番気を付けているのは「やりすぎないこと」です。ゴルフウェアは派手すぎたりシンプルすぎたり両極端になりがちなので、いい感じのさじ加減でゴルフアパレルを作るって簡単そうに見えて実は難しかったりします。現在のPINGアパレルは、どんなブランドのウェアとも「着合わせがしやすい」というのが、選ばれている一つの理由だと思いますし、そういうブランドでいたいなと思っています。なので、いまは「全身PINGアパレルでなくてもいい!」と思っていて、他のブランドのコーディネートの中に取り入れてもらう方向で、少しずつユーザーを増やしていけたらと考えています。


中津留:店頭では、販売員がお客様にこだわりと楽しさを伝える技術を高め、ギア選びとウェア選びの楽しさを融合できるようになればいいなと思っています。お客様にPINGアパレルの良さをきちんと伝えることで、着ているときの安心感につながると思います。お客様の「PINGのギアもいいけど、アパレルもいいよ!」という声が増えていけば、ブランドが広まっていくと考えています。



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―実際の2021FW商品で、ブランドの方向性を象徴するようなアイテムはありますか

岡田:ブランドとして2021年と2022年は「ROAD TO ARIZONA」というテーマで動いています。あくまで一例ですが、用意したこちらの2点はどちらも星条旗をイメージしたクルーネックのニットです。「PINGはアメリカのアリゾナ州フェニックスで約60年前にスタートしたブランド」であることを知ってもらいたいという思いをデザインに込めました。ブランドのバックグラウンドを表現することで、PING発祥の地を周知できると考えており、「ROAD TO ARIZONA」のテーマは2022年の秋冬まで継続していく予定です。



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ブランドのルーツへの新たなアプローチがTSIさんが取り組む第一歩なんですね。歩んでいった先に展望している目標は?

中津留:アパレルシェアナンバー1を取っていきたいですね。ギアも1位、アパレルも1位を目指したいです。着心地や素材へのこだわりがPINGアパレルの強みだと思っているので、一人でも多くの人に1回でいいので試着をしてもらいたいですね。「着れば分かる!」と自負しています(笑)。


岡田:ギアブランドのアパレルで一番有名になりたいです! どこのゴルフ場に行っても、PINGアパレルを着ている人がいるような状態になったら嬉しいですね。いまはPINGのギアを使用している方に着ていただくことが多いのですが、ゆくゆくはギアを知らなくてもPINGアパレルを着ているくらい、ゴルフウェアでファンを魅了するブランドに成長していきたいです。




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