1954年に初代がデビューして以降、いつの時代もアメリカを代表するスポーツカーとして君臨し続けてきたシボレー「コルベット」に8代目が誕生した。今回は「コルベット クーペ3LT」に試乗し、新型が遂げた進化について検証する。「C8」と呼ばれる新型コルベットの最大の特徴は、エンジンの搭載位置がフロントからドライバーのすぐ後ろに移動され、初めてミッドシップレイアウトになったことだ。
樹脂素材による流麗なボディやOHV形式のV8エンジンといったコルベットの伝統を受け継ぎつつ、史上最大の改革が込められたC8をさっそくチェックしてみた。
これまでのフロントエンジン時代とは違って、車体後半にボリュームを持たせたスタイリングはミッドシップならでは。それでも鋭いノーズの先端に象徴的なエンブレムが据えられており、最新のコルベットであることを認識できる。
エクステリア以上に印象的なのはコックピットのデザインだ。左右2つのシートがエッジの立ったセンターコンソールではっきりと区切られ、ドライバーズシートを独立させている。スイッチ類や大型モニターが手の届くところに整然と並ぶ様子は戦闘機のコックピットを思わせる。
街中をゆったりしたペースで走りはじめると、乗り心地の良さと快適性に感心させられた。乗り心地の良いアメ車というと、ストローク感たっぷりのブヨブヨした感じを思い浮かべる人がいるかもしれないが、C8のそれはまったく違う。
サスペンションストロークは比較的短めだが、その行程の中に混じる余計な振動の類を電子制御のダンパーがしっかりと取り除いている。だから引き締まっているけれど乗り心地が良いという、一見相反するようでいて理想的な居住性を実現している。
C8が採用したミッドシップレイアウトのメリットは、重量物であるエンジンを車体の中心に置くことで回頭性を助け、クルマ全体の運動性能が高まることにある。また、車体の前後が軽くなったことで前後方向の揺れがすっきりと収まることも利点のひとつ。ゆっくりと走っている際のスポーツカーらしからぬ上質な乗り心地もミッドシップ化の恩恵なのである。
一方、ワインディングや高速道路でペースを上げてみても、C8は期待を裏切らなかった。コーナリング時の挙動はミッドシップのイメージほどには鋭くなく、歴代のコルベットに似た素直さで満たされている。スロットルを強めに踏み込んで最高出力502psもの大パワーを解放しても、タイヤのグリップの許容範囲内にあり、昔のアメ車にあったタイヤが暴れるような感じは一切なかった。
例えばフェラーリやポルシェといったヨーロッパのメーカーが作るミッドシップのスポーツカーは、鋭い回頭性の中にスリリングな気配が当たり前のように含まれる。だがC8は、ライバルよりもホイールベースを長く取ることで神経質になりがちなハンドリング特性を穏やかなものにし、多くのドライバーが安心して飛ばすことができるように設えている。
シャシー自体のキャパシティが大きく、ラグジュアリーからスポーティまでカバーするC8だが、現代車らしくドライビングモードを変えることで走りのシチュエーションに細かく合わせ込むことができる。
ステアリングやブレーキのフィードバック、サスペンションの硬さ、エンジン音といったセッティングを細かく変更でき、その変化を容易に感じ取ることができるのも、今どきのプレミアムスポーツカーらしい楽しみといえるだろう。
これまでのコルベットがそうであったように、C8は実用性の部分も犠牲にしていない。車体の前後フードを開けると、立派なラゲッジスペースが確保されていて驚かされた。フロントには大きなボストンバッグ2個が余裕で収められる深いスペースがあり、リアにはエンジンの真後ろに車幅いっぱいのスペースが確保されている。プロツアーで使用するような幅のあるキャディバッグでも、1個であれば余裕を持って積むことができる。
ドライバビリティの部分は個人の好みが入るので優劣をつけにくいが、実用性の高さという点ではヨーロッパのライバル車にはっきりと差を付けている。歴代のコルベットが備えていたラグジュアリーカー的な素養はそのままに、C8は静的にも動的にもかなりのレベルまで進化を果たしていた。走行モードの切り替えはもちろんだが、スマホとの連携も抜かりがない。見た目の鋭さとは裏腹に、普段使いからパートナーを乗せたショートトリップまで、幅広く活躍してくれる一台に仕上がっていた。
シボレー コルベット クーペ3LT 車両本体価格:14,000,000円(税込)
- ボディサイズ | 全長 4630 X 全幅 1995 X 全高 1220 mm
- ホイールベース | 2725 mm
- 車両重量 | 1670 Kg
- エンジン | V型8気筒 OHV
- 排気量 | 6153 cc
- 変速機 |8速デュアルクラッチ(AT)
- 最高出力 | 502 ps(369 kW)/ 6450 rpm
- 最大トルク | 637 N・m / 5150 rpm
- Text : Takuo Yoshida
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