PGチーフデザイナーが直面した2020年の葛藤|新作ウェアの「桜」に込めた思い

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人気ゴルフアパレル「パーリーゲイツ」でディレクター兼チーフデザイナーを担当する酒井 昭征さん(38)に出会ったのは、初めての緊急事態宣言を経て「新しい生活様式」への適応に社会全体がまだ戸惑っていた2020年秋のことでした。その時点では想像もつかない2021年春夏に向けた新商品を前に、コロナ禍での葛藤やゴルフウェア・仕事にかける思いなど、酒井さんの体温のあるコトバが次々にあふれ、印象に残ったのです。デザインに込められた本音のストーリー。シーズンを前に、BRUDERが改めてインタビューしました。(聞き手:染野つぐみ=BRUDER編集)

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―まずは酒井さんのお仕事の概要を教えてください。

「パーリーゲイツでディレクター兼チーフデザイナーとして働いています。現在12年目です。私が入った時にはすでにパーリーゲイツとはこういうものだということができあがっていました。トラッドをベースに、ハッピーで、健康的で、カラフルで、勢いのあるブランド。その基本を忘れずに、自分らしさをプラスしていければいいなと思って仕事をしています。」



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―2021年春夏シーズンの新作を発表した2020年は、世界的に経験したことのないような一年でした。酒井さんにとってはどんな年でしたか?

「令和になったとはいえ、できるまでやり続けるような、いわゆる昭和の働き方で「パーリーゲイツもっともっと見てくださいよ」という感じで仕事していたんです。それが、コロナウイルスの影響で急に会社に行けなくなり、スーパーに行っても人々は物を買いあさってマスクやティッシュペーパーがなくなるような状況も目の当たりにしました。「自分はなんでデザイナーをしているのだろう」と落ち込んでしまったんです。“ゴルフの服を考える”って余裕こいた仕事だなと。15年間夢を見ながらやってきたアパレルの仕事って何だったんだろうと思ったんですね。僕の実家は兼業農家をやっているので、もしも米を作る仕事をしていたらもう少し違うように生きていけたのかもしれない、と思ったりもしました。」



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―厳しい状況でしたね。そんな状況下でどのようにお仕事をされていたのですか?

「ちょうど2021年春夏のパーリーゲイツをどうしていくか?というテーマを考えなければいけない時期だったのですが、1カ月先がどうなるかもわからない状況で、人々はゴルフにも行かなくなるんじゃないかと、すべてがどうでもよくなりかけていたんです。そんな中、コロナになる前の2019年に社内で撮影された自分の動画をみる機会がありました。その頃の僕は「もっと売上あげます」とか、「パーリーゲイツはこうあってほしい」とか、「来年はこうしていきたい」「何年後にはこうなりたい」とか、夢をちゃんと語っていたんです。動画の中にすごく元気な自分がいて、めちゃくちゃ楽しそうなんですよ。それに比べて今の自分は…と思い始めて、その動画をみて泣いたりもしました。「そうだよな、そういう気持ちあったよな」って思い出して、ようやく元気を取り戻しました。」



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―以前と比べて、少なからず心境や考え方にも変化はありましたか?

「自分がやっている仕事で、世の中に対してできることはなんだろうと考えるようになりました。そこで出会ったのがナイキのメッセージ「You Can't Stop Us,」。その言葉を目にした時、グッと感じるものがあり、なんていい言葉なんだろうと思いました。「STAY HOME」といっているメゾンが多い中、ナイキが発信するメッセージは前向きだったのです。自分がナイキからメッセージを受け取ったのと同じように、「自分にもできることが何かあるんじゃないか」と思い始めました。まず初めに大きく変わったのは、昭和的なイケイケな働き方から、もうちょっと今の時代を見ながらやっていこうという考えになったことです。」



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―そうした酒井さんの内面の変化は、デザインにも表れるものでしょうか?

「これも内面の変化の一つだと思いますが、日本人として生きてきてよかったなと改めて思うようになりました。世界中が同じ危機に直面する中で、海外からは「マスクしない」とか「秩序がない」という報道もありました。日本人は落ち着いて行動を取って、素晴らしいと思いましたね。そこで、いつものパーリーゲイツではあまり表現しない、和のモチーフ「桜」を2021年春に出すのはいいのかなと思いました。もちろん裏付けもあって、春って花のトレンドが来るんですよ。うちのピンク090品番はとても人気の色ですから、いつもなら選ばない「桜」というテーマと、パーリーゲイツのアイデンティティカラーであるネイビーを組み合わせて、ピンクを打ち出すことにしました。」

―展示会でもひときわ目を引くデザインになっていました。


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パーカー¥35,200、ポロシャツ¥20,900/全て税込

「テーマは『BRAVE BLOSSOMS』。それまで当たり前のように楽しんでいた桜を見られなかった2020年の経験から発想したんです。2021年こそはお花見へ行くことができるよう願いを込めて、桜のモチーフを大胆にデザインに落とし込みました。もちろん機能性も重視していて、世界でも数台しかない特殊な編み機を使用し、裏糸をかなり多めにすることでクッション性があるソフトな裏毛で着心地も追及しています。無地のポロシャツはUVカット、クーリング効果、吸水速乾性を持つ高機能素材で、袖口には桜の刺繍を施しているんですよ。」



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パンツ¥30,000、スカート¥26,000/全て税込

「日本人としての喜びや誇り、日本を愛する思いの象徴として桜を表現しました。パーリーゲイツらしい鮮やかなカラーと、トラディショナルなカラーであるネイビーの組み合わせでポップかつトラッドに仕上げています。パンツは春に最適なコットンツイルストレッチで、甘めの綾織りにすることで適度な膨らみが出て素材の表情が引き立つよう作られています。着る人が少しでも明るい気持ちになってくれたら嬉しいですね。」


デザインにかけた本音を話してくれた酒井さん。次回のインタビューでは、「ESSENTIAL(必要不可欠・必要最低限)」をテーマにした新作デザインや、作り手として改めて考え直したゴルフへの想いに迫っていきます。

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