現在のBMWのラインアップをファッションにたとえて説明すれば、奇数モデルがトラディショナル系で、偶数モデルが流行りのモード系になる。つまり、慣れ親しんだ1、3、5、7の各シリーズに対し、2、4、6、8の各シリーズは“ええかっこしぃ”のスタイリッシュなモデルということ。
今回紹介するX6は、オーセンティックなSUVスタイルのX5の兄弟モデルにして、お洒落なクーペ仕様。ちなみにBMWは自社製品をSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)とは呼ばずに、偶数のお洒落系をSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)、奇数のゴツい系をSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)と呼ぶ。
まず全幅2mを超えるサイズ感と、大型化したフロントグリルに圧倒される。ただしグリルに関しては、先祖返りという見方もできる。BMWのグリルは、腎臓(キドニー)のように見えることから、キドニーグリルと呼ばれる。1933年にBMWが初めてのオリジナル車として発表した303、戦後の名車と名高い501や502には縦長のキドニーグリルが採用され、1960年代のBMW1500(後の2002)から横に広がり、最近は再び縦に伸びるようになった。
試乗したのは、X6に最高出力265psの3.0リッター直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載するxDrive35d Mスポーツ。この直6ディーゼルが秀逸だった。低回転域からトルクが滑らか、静かなのは最近のディーゼルでは当たり前になりつつあるが、エンジンの回転フィールとトルクの盛り上がり方が気持ちいい。「トゥルルル」と朗らかに回転を上げながら、むっちりとした濃厚なトルクが車体を引っ張る。
かつてのBMWの6気筒ガソリンエンジンは、その繊細で滑らかな回転感覚から「シルキーシックス」と呼ばれた。この6気筒ディーゼルターボの滑らかでリッチな感覚は、シルクというよりもビロードを思わせる。変速時のショックをほとんど感じさせない、トルクコンバータ式の8速ATもパワートレーン全体のスムーズな印象に貢献しているだろう。
おもしろいのは、走りだすと外見で圧倒されたサイズ感が気にならなくなることだ。ワインディングロードに入ると、ボディがひと回りもふた回りもコンパクトになったように感じるあたりは、BMWの他のスポーティモデルと共通している。 “ええかっこしぃ”の SACであっても、BMWはBMWなのだ。
コーナーをひとつ、ふたつとクリアするうちに、少しアイポイントは高いけれど、クルマとの一体感が芽生えてくる。アクセルやハンドル操作といった入力に対して、期待通り、正確に反応してくれるから生まれるのだろう。削り出しの金属の塊のようなソリッドなドライブフィールが心地よい。
タウンスピードの低速域では多少のハーシュネス(路面からの突き上げ)を感じるものの、速度を上げるにつれ解消され、むしろ姿勢をフラットに保つ美点が強く感じられるようになる。
「Mスポーツ」のグレードは、電子制御式可変減衰力ダンパーが備わるアダプティブサスペンションが標準装備されるが、その効果は確かにあると感じられた。ソフトなサスペンションではないが、「Mスポーツ」だからといってガチガチに固められているわけでもない。
太くて薄いタイヤ(22インチのホイールにフロント275/35R22、リア315/30R22サイズ)を見事に履きこなし、スポーツマインドのあるドライバーが好ましいと思えるさじ加減の絶妙に快適なセッティングだ。ワインディングロードでは、2.3トンを超える車重なのにブレーキに頼りなさを感じる場面はなく、ブレーキペダルの踏力に応じてリニアに減衰力が立ち上がった。「Mスポーツ」に標準のスポーツブレーキの効果だろう。
総じて、いかにもBMWらしいスカッとするドライブフィールで、世の中にこれだけSUVが増えたなかで、ブランドの個性をきちんと打ち出している。さすが、「うちはSUVではなくSACです」と言い張るだけのことはある。
ひとつ難点を挙げれば、流麗な弧を描くルーフラインと引き換えに、後席の居住性に制約があること。座高の高い筆者(身長180cm)は、後席で頭がつかえた。後席の居住性を求めるならX5、2人乗り前提のええかっこ優先ならX6。選択の分かれ目は思いのほかはっきりしていると思う。
BMW X6 xDrive35d M Sport
車両本体価格:10,740,000円(税込)
- ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
- ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
- ボディサイズ | 全長 4945 X 全幅 2005 X 全高 1695 mm
- ホイールベース | 2975 mm
- 車両重量 | 2320 Kg
- エンジン | 直列6気筒 DOHC ディーゼルターボ
- エンジン排気量 | 2992 cc
- 最高出力 | 265 ps(195 kW)/ 4000 rpm
- 最大トルク | 620 N・m / 2000 - 2500 rpm
- Text : Takeshi Sato
- Photographer : Koichi Shinohara
お問い合わせ先
-
BMW カスタマー・インタラクション・センター:0120-269-437
www.bmw.co.jp