新型Q3に見た万能型SUVのカタチ

これは日本における万能車ではないか──。アウディの新型Q3の試乗を終えて、思わずそうつぶやいた。このクルマが1台あれば、納得のクルマ生活を送ることができる。そう感じた理由を記す前に、2020年7月に導入された新型Q3の日本におけるラインアップを整理したい。

まず、ボディスタイルは2種。オーセンティックなSUVスタイルのアウディ Q3と、その全高を45mm低くしてクーペライクなフォルムを与えたアウディ Q3 スポーツバックだ。パワートレーンも2種で、ひとつは2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンとクワトロ（4駆）の組み合わせ。もうひとつが1.5リッター直列4気筒ガソリンターボエンジンのFF（前輪駆動）。今回試乗したのはアウディ Q3 35 TDI クワトロ Sライン、つまり背高のSUVボディにディーゼルエンジンと4駆システムを搭載した仕様だ。

実車を前にすると、もうコンパクトSUVとは呼べないと感じる。従来型に比べてホイールベースは75mm、全長に至っては100mm以上延長され、なかなか立派なサイズ感になっているからだ。そして、これらのボディ拡大によって、従来型の数少ない弱点だった後席居住スペースとラゲッジルームが狭いという問題が解決した。大人2人が後席でゆったりとくつろぐことができるし、荷室の容量は15%も拡大。この室内空間の拡充が、万能車だと感じた理由のひとつだ。

走り出すと、その乗り心地のよさに驚かされる。A6やA8など最近のアウディ各車はふんわりと軽い、“魔法のじゅうたん”のような乗り心地が売りであるけれど、アウディ Q3もその例に漏れず、ちょっと浮遊感のある極上の乗り心地を提供してくれる。少しマニアックな解説を加えておくと、アウディ Q3は「MQB」と呼ばれる同社の最新のプラットフォーム（基本骨格）を採用している。

最新設計の基本骨格は快適な乗り心地とともに、高速での安定性と正確なハンドリングももたらしてくれた。舗装の荒れた箇所を強行突破しても、サスペンションがアスリートの膝関節のように柔軟に伸び縮みして、路面からの衝撃を緩和してくれる。コーナリングでは、やはりアスリートの筋肉のように車体を支えて、安定を保つ。乗り心地のよさと、ハンドリングのよさの両立。見かけこそSUVであるけれど、プレミアムセダンのように快適で、スポーツセダンのように走る楽しさを感じることができるのだ。

アウディのディーゼルエンジンはもともと洗練されていることで知られているが、2.0リッターのディーゼルターボと7速Sトロニック（DCT）の組み合わせは、さらに連携がよくなっている。窓を閉めている限り、かつてのディーゼルにあった音や振動を感じることは皆無で、モーターのように滑らかに回転を上げる。1750rpmという低回転域から340Nmという大トルクを発生するというスペックに偽りはなく、アイドル回転から力強く加速する。しかもシフトショックはほとんど感じないから、発進加速が連続する市街地や渋滞でも、ストレスを感じず、おおらかな気持ちでハンドルを握ることができる。

しかも、せいぜい2500rpmも回せばアクセル操作に俊敏に反応してくれるから、「カーン」と回る高回転型ガソリンエンジンとは違うけれど、これはこれで楽しめる。つまり、操る楽しさも十分に備えている。しかもアウディ自慢のクワトロで、最低地上高も確保しているから、タイヤさえ換えれば雪国だって安心して走ることができる。

ワインディングロードでのハンドリングを論じるクルマではないが、タイトなコーナーでも2m近い全高を意識させないあたりは立派だ。最新のプラットフォームに加え、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクというモダンなサスペンション形式も、安定したコーナリングフォームにひと役買っている。

そして、存在感のあるエクステリアと上質なインテリアの組み合わせを見ると、やはりアウディのデザイン力はレベルが高いといわざるを得ない。広くて、カッコよくて、走って楽しい。しかも、いざという悪天候の時に頼りになる。クルマやライフスタイルにこだわる人がもし1台だけ選ぶとするならば、こういう万能型モデルになるのではないだろうか。