アルピーヌはルノーのモータースポーツ活動を担うとともに、そこで得たノウハウをもとにスポーティモデルを開発する組織だ。メルセデス・ベンツにおけるAMGやBMWにおけるM社のような立ち位置。ルノーF1チームは2021年よりアルピーヌF1チームに名称を変更する予定となっている。
2018年に発表されたアルピーヌ A110は、久しぶりにアルピーヌが独自開発したモデル。このミッドシップのスポーツカーは世界中で高く評価された。高評価を得た最大の理由は、すばしっこい運動性能と、ショッピングにもデートにも使える快適性が両立していたことだろう。まるでミズスマシのように、滑らかに走るのだ。
今回紹介するアルピーヌ A110Sは、そんなA110に加わったハイパワー仕様。A110で252psだった1.8リッター直列4気筒ターボエンジンの最高出力が、A110Sでは292psにまで引き上げられている。同時に最高出力の発生回転数も6000rpmから6420rpmとなっていることから、高回転化していることもわかる。
ここで気になるのが、エンジンフィールだ。一般にターボエンジンの場合は、出力を上げると低回転域のレスポンスが悪くなるなど、大味になる傾向がある。スペックだけ見ると、A110で感じられた切れ味の鋭いエンジンフィールの行方が心配だ。また、パワーアップに伴ってサスペンションのバネレートが1.5〜1.6倍ほど引き上げられている点も、しつけがよかったA110との比較だけに気になるところ。やや懸念を抱きながら、アルピーヌ A110Sの試乗に臨んだ。
まず、ルックスがA110よりも精悍に見えたのは、ルーフがブラックのカーボン製となっていたせいだった。ルーフをカーボンにすることで1.9kgの軽量化が図られているという。1.9kgの効果はどれほどか?という疑問も湧くが、屋根を軽くすることのポイントは「軽量化」よりも「低重心化」にあると聞いて、なるほどと納得した。
エンジンを始動してデュアルクラッチ式の7ATをDレンジに入れてスタート。アイドリング状態でブレーキをリリース、クリープから徐々にアクセルペダルを踏み込み速度を上げる。高回転化によって低速トルクが失われているのではないか、という懸念は杞憂に終わった。1.8リッター直4ターボは、目の詰まったトルクを供給してくれる。ノイズが増えているということもない。逆に言えば、街で乗っている限りA110とのパワー差は感じにくい。
一方で、乗り心地はタウンスピードでも引き締められていることが伝わってくる。路面の荒れたところや道路のつなぎ目を越えた瞬間のハーシュネス(路面からの突き上げ)は、明らかに強くなっている。決して不快ではない。4本のサスペンションがしっかりと動き、路面からの衝撃のかどを丸める方向で機能しているためだ。ボディ剛性の高さもあって、ハーシュネスは一発で収束する。辛口ではあっても、さわやかな淡麗辛口の味付けといえる。
市街地からワインディングロードへ移動すると、A110Sはその真価を発揮した。40psのパワーアップの効果は、4000rpm以上の回転域だとはっきりと体感することができる。この回転域でのタコメーターの盤面を針が駆け上がるスピードが明らかに増しており、突き抜けるような回転フィールがエキサイティングだ。速いだけでなく、ドライバーを挑発するような性格が加わっているのだ。
ある程度まで攻め込んだ状況では、車体が軽くなったような感覚を味わえる。ハンドル操作に対するレスポンスが鋭くなり、よりミッドシップらしい挙動で一発でスパッとフロントがインを向いていく。もちろんこうした場面でもA110に比べればハーシュネスは確かにキツい。それでも、スポーツドライビングを好む方であれば問題ないと思える妥当なトレードオフと感じられた。
A110がフルーティでふくよかな味わいだとすれば、A110Sはすっきりとした辛口。好みは分かれるところだろう。スポーティで引き締まったドライブフィールを存分に味わいたい方には、前述の通りA110とは別のテイストを持つクルマとして、ぜひ一度乗ってみることをおススメしたい一台だ。
ALPINE A110S
車両本体価格:8,990,000円(税込)
- ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
- ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
- ボディサイズ | 全長 4205 X 全幅 1800 X 全高 1250 mm
- ホイールベース | 2420 mm
- 車両重量 | 1110 Kg
- エンジン | 直列4気筒 DOHC ターボ
- エンジン排気量 | 1798 cc
- 最高出力 | 292 ps(215 kW)/ 6420 rpm
- 最大トルク | 320 N・m / 2000 rpm
- 0-100km/h | 4.4 秒
- 最高速度 | 260 km/h
- Text : Takeshi Sato
お問い合わせ先
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アルピーヌ コール : 0800-1238-110 受付時間 9:00 – 18:00(年中無休)
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