「クルマと一体になれる感覚」アバルト 595 ピスタ

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アバルトのステアリングを握る--その機会は自動車ジャーナリストであっても決して多くありません。大衆車メーカーとは異なり、新型車を発表するのは年に1回あるかないか。今回アバルト 595 ピスタを走らせたことはとても貴重な体験でした。しかも天気のいい箱根でのテストドライブ。先に感想を書いちゃいますが「本当に気持ちよかった」試乗記です。

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アバルトのラインアップは、マツダ ロードスターをベースとした124スパイダー、そして595、595 ツーリズモ、595 コンペティツィオーネの4車種となります。595シリーズはお馴染みフィアット 500をベースにしたチューニングカー。いずれも、創業者であり偉大なエンジニアでもあるカルロ・アバルトの名を冠にし、第一級の走りの資質を備え、速さと共に美しいデザインに仕上げられたマシンとなります。

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    イエローのアクセントカラーをあしらった刺激的なカラーリング

考えてみてください。これほどの少数ラインアップでいいのかと。いくら大きなFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)傘下に属すとはいえ、普通に考えればもっと車種を増やして台数を稼がないとブランドとしては成立しませんよね。 新型車のセールスは通常、デビュー年や翌年で落ち着き、あとは下降の一途をたどるため、販売が落ち着く前に次の新型車をデビューさせられる車種数が経営上も必要なのです。

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    トランスミッションは AT(MTA) と 5 速(MT)を用意

ですが、アバルトは違います。この濃い味つけのされたクルマはデビューから何年経っても飽きられません。マーケットは狭いせいもあって、販売台数はキープされるのです。実際、2019年のアバルトの日本国内販売台数は2955台でした。2017年の3264台に次ぐ数字です。魅力的な限定車を出しては数字を加算する独自の戦略で、2019年発売の「70周年記念モデル」はわずか10分で300件のオーダーがあったそうです。MT(マニュアルトランスミッション)車が人気なこともアバルトの特徴で、その比率はなんと48%。広い自動車業界でまさにオンリーワンの存在感を放つブランドです。

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    マットブラック仕上げの 17 インチアルミホイールを装備

いつも通り、前置きが長くなりましたね。今回の主役、新型595 ピスタに話を戻します。今年5月にリリースされた限定車で、「ピスタ」はイタリア語でサーキットを意味します。黄色のアクセントをちりばめたボディはクローズドとオープントップの2種類。それぞれにATとMTがあり、スタンダードの595から20psアップした165ps、1.4リッターターボエンジンを積んでいます。専用の17インチホイールとエキゾーストシステム、リアサスペンション(KONI 製 FSD ショックアブソーバー)もピスタの名にふさわしい装備といえるでしょう。

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久しぶりに乗ったアバルトでしたが、走り出すと、味わったことのある独特の感じがすぐ脳裏によみがえってきました。そうそう、このハンドリングと挙動がまさにアバルトなんだ、と五感で思い出していく感覚。ステアリングレスポンスはクイックで切れ角が深く、スッと切った方向に向きを変えます。追従する小さなボディは堅牢で、ドライバーを中心に回るフィーリングが特徴。エンジンはフロントですが、イメージ的にはリアエンジンのような感覚ともいえます。かつてのアバルトがそうであったように、その味付けは新型にも継承されていました。

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    イタリア語でサーキットを意味する「Pista」

165psのエンジン出力にも不満はありません。軽量ボディですからスタートから高速域まで軽快です。また、5速マニュアルの操作性はよく、このエンジンのおいしいところをうまく引き出せます。今回はワインディングがメインだったので2速と3速を多用しましたが、ギア比のセッティングがいい感じにマッチしていました。「使える!」という感想ですね。低中速域のギア比が高すぎたりして合っていないとせっかくのマニュアル車でも運転が楽しくありません。効果のないギアチェンジを頻繁にしなくてはならないのは単純にストレスなのです。

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また、新型595 ピスタのエキゾーストサウンドが気持ち良かったことも付け加えておかなければなりません。このクルマには排気圧でバルブを開いて音を変える装置「レコードモンツァ」というエキゾーストシステムが装着されていて、高回転域でレーシーなサウンドを奏でてくれます。屋根を開けられる595C ピスタならそれをダイレクトに聴きながらドライブすることができるでしょう。

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まさにアバルトの魅力全開の限定車でしたね。国内の限定台数は約250台ですが、もうすでに6割以上売れているそうですから、興味のある方は急いだ方がいいでしょう。「小気味いい」という言葉がぴったりのこのクルマなら、ストレスのたまりがちな日々でも頭スッキリ。今を生きるワルくない処方箋だと思います。

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Abarth 595 Pista
車両本体価格:3,280,000円(MT)/ 3,450,000円(MTA)税込

  • ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
  • ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
  • ボディサイズ | 全長 3660 X 全幅 1625 X 全高 1505 mm
  • ホイールベース | 2300 mm
  • 車両重量 | 1120 Kg
  • エンジン | 直列4気筒 DOHC インタークーラー付ターボ
  • 排気量 | 1368 cc
  • 最高出力 | 165 ps(121 kW)/ 5500 rpm
  • 最大トルク | 210 N・m / 2000 rpm

 

  • Text : Tatsuya Kushima

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