「進化論」が味わい深い新型ポルシェ 911 カレラの試乗

f:id:graphishio:20200626174839j:plain

  • f:id:graphishio:20200626194846j:plain

    写真は全てポルシェ 911カレラ 4S

新型ポルシェ 911 カレラの日本でのデリバリーが始まった。2018年に発表された「タイプ992」と呼ばれる8代目のポルシェ 911シリーズのベーシック仕様。「スポーツカーのメートル原器」とも称され、世界中のクルマ好きが注目し続けるモデルだ。最高出力385ps(後輪駆動)のカレラと最高出力450ps (4輪駆動)のカレラ 4Sに試乗し、ポルシェ 911の魅力をもう一度考えてみた。

  • f:id:graphishio:20200626194916j:plain

最新の911 カレラに乗ると、リアに積まれる水平対向6気筒エンジンが、文字通りこのクルマの “心臓”であることを体感できる。いまどき、パワフルなエンジンはいくらでもある。けれども滑らかな吹け上がりと「♪トゥルルルル」という濁りのない音はフラットシックスならではのもので、特に高回転域まで回したときのカーンと突き抜けるような回転フィールは、いつ経験しても鳥肌が立つほど官能的に思える。

  • f:id:graphishio:20200626194920j:plain

水平対向エンジンは、ピストンが垂直方向に運動する直列エンジンやV型エンジンと異なり、水平方向にストロークする。このピストンの動きが、向かい合ったボクサーがパンチを打ち合うシーンのようにも見えることからボクサーエンジンとも呼ばれる。向かい合ったピストンはそれぞれが逆方向にストロークし、このときに互いの慣性を打ち消し合うことで、すぐれた回転バランスが生まれる。ただパワフルなだけでなく、音や振動などの官能性をドライバーが味わうことになる背景には、こういう理由がある。

  • f:id:graphishio:20200626194850j:plain

水平対向エンジンには、重心が低くなるという利点もある。だったら世界中の自動車メーカーがこのエンジン型式を採用しても良さそうなものだ。けれども、オイルの管理に気を配る必要があることや、生産工程が複雑になるなどの理由があり、水平対向エンジンを量産しているのは世界を見渡してもポルシェとスバルの2社のみとなっている。

  • f:id:graphishio:20200626194854j:plain

かつて空冷式だった水平対向エンジンは、1997年にデビューしたタイプ996と呼ばれる第5世代の911から水冷化されている。「バタバタと回る空冷のほうが味わい深かった」という意見にはうなずける部分もあるものの、燃費や騒音などの環境問題の解決を考えれば水冷化は必然だった。スポーツカーを反社会的な存在や悪者にはしないというポルシェの哲学があるからこそ、911は半世紀以上にわたってスポーツカーの王様に君臨してきたと思う。

  • f:id:graphishio:20200626194857j:plain

385psのカレラと450psのカレラ 4Sとを比べると、やはり“S”のほうが体感でもはっきりとパワフルだ。いずれもターボで過給するが、特に5000rpm以上の領域での迫力が違う。ただし日常領域では、カレラ 4Sよりもタービン径をコンパクトにしたカレラのほうがアクセル操作に対するレスポンスに繊細さがあるようにも感じる。過去型との比較でいえば、ターボの存在を感じさせずに、大排気量NA(自然吸気)フラットシックスのように振る舞うエンジンが、「タイプ992」と呼ばれる最新の911に共通した魅力であることは間違いなさそうだ。

  • f:id:graphishio:20200626194932j:plain

ハンドリングという視点でも、カレラ、カレラ 4Sに乗って感じるのは、日常領域での使い勝手の良さがさらに増したことだ。1974年から80年代末にかけて生産されたタイプ930までは、高速域でハンドルの手応えがあやふやになるという欠点を抱えていた。リアにエンジンを積むRR(リアエンジン・リアドライブ)のレイアウトを採ったため、相対的にフロント荷重が不足することが原因で、「wrong end」(エンジンを積む場所が間違っている)と揶揄されることもあった。ただしいまや、そうした悪癖は影も形もなくなった。どんな速度域でもハンドルはどっしりとした手応えを伝え、ドライバーは安心して運転に専念できる。

  • f:id:graphishio:20200626194913j:plain

最新の911では、RRレイアウトのネガティブ要素よりも、むしろリアエンジンならではの醍醐味が味わえるようになったとさえいえる。醍醐味とは、コーナーで軽い鼻先がスムーズに向きを変え、後輪にグッとトラクションが掛かって脱出する独特の感覚だ。前足で方向を定めて後ろ足で地面を蹴る、動物のような動きがひょっとすると人間の感性にしっくりくるのかもしれない。

  • f:id:graphishio:20200626194904j:plain

また、RRはブレーキングでも有利。ハードにブレーキを踏むと、どんなクルマでもノーズはお辞儀をする。フロントに重たいエンジンを積むモデルは、そんなノーズダイブを強く感じるから、足を固める必要に迫られる。対してフロントが軽い911は、感覚としては車体が水平状態を保ったまま、地面に吸い付くように速度を落とすのだ。アクセルを踏むのが楽しいはもちろん、911はブレーキを踏むたびに感動するのだ。また、ノーズダイブが抑えられることで、必要以上にフロントの足回りを固める必要がない。911がスポーティなのに快適なのは、長い年月をかけてリアエンジンゆえのハンデを克服してきたエンジニアたちの地道な取り組みの賜物なのだ。エンスージアストたちが「最新のポルシェが最良のポルシェ」だと断言するのには、こんな背景がある。

  • f:id:graphishio:20200626194909j:plain

ポルシェ 911をドライブしていると、適度なサイズ感、ボディの見切りの良さ、ボトムやノーズを地面にこする心配がないこと、ポンと後席に手荷物を置けることなど、使い勝手の良さを改めて感じる。この日常領域でのフレンドリーさこそ、ポルシェと他のスーパーカーとの大きな違いでもある。一緒に生活できるあたりまえのクルマが、ポルシェの考える理想的なスポーツカー。つまりポルシェは、スポーツカーを特別な乗り物だと考えていないのだ。だからこそ911は、世界中で愛される。あたりまえのクルマをつくろうとした結果、あたりまえではない孤高のスポーツカーができてしまったことが実に興味深い。

f:id:graphishio:20200626194929j:plain

Porsche 911 Carrera
車両本体価格:13,890,000円(税込)

  • ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
  • ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
  • ボディサイズ | 全長 4519 X全幅 1852 X全高 1298 mm
  • ホイールベース | 2450 mm
  • 車両重量 | 1505 kg
  • エンジン | 水平対向6気筒DOHCターボ
  • 排気量 | 2981 cc
  • 最高出力 | 385ps(283kW)/ 6500 rpm
  • 最大トルク | 450 N・m / 1950-5000 rpm
  • 0-100km/h | 4,2 秒
  • 最高速度 | 293 Km/h

 

Porsche 911 Carrera 4S
車両本体価格:18,350,000円(税込)

  • ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
  • ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
  • ボディサイズ | 全長 4519 X全幅 1852 X全高 1300 mm
  • ホイールベース | 2450 mm
  • 車両重量 | 1565 kg
  • エンジン | 水平対向6気筒 DOHC ターボ
  • 排気量 | 2981 cc
  • 最高出力 | 450ps(331kW)/ 6500 rpm
  • 最大トルク | 530 N・m / 2300-5000 rpm
  • 0-100km/h | 3.6 秒
  • 最高速度 | 306 Km/h

 

  • Text : Takeshi Sato

お問い合わせ先

  • ポルシェ・ジャパン フリーダイヤル:0120-846-911

    www.porsche.com
閉じる