昨年11月にL.A.で開催された、ワールドプレミア。そこで発表となった、新型ポルシェ911カレラS / カレラ4Sを、スペイン・ヴァレンシアの一般道、そしてサーキットで、遂に試すことができた。Type 992というコードネームが与えられた新型は、911のアイデンティティを継承しながら、時代のニーズに応え進化を果たした見事な一台だった。
Paragraph01 進化させるポイント知っているからカッコいい
1963年にデビューしたポルシェ911にとって、新型は通算7世代目のモデルとなる。コードネームは〝タイプ992〟。特徴的なスタイリングはもちろん、水平対向エンジンを車体後部に積み、主に後輪を駆動するという911の基本レイアウトは、今回もまったく変わっていない。
ポルシェはいつもそうしてきたように、911の歴史と伝統を守りつづけながら、同時に時代のニーズに応える進化を実現してきたのである。
眩しいほどの陽光の下で対面した今回のテスト車は、デビューを果たした新型911カレラS / 911カレラ4Sのいずれも8速PDK仕様。第一印象として、どちらも遠くからひと目見ただけですぐに911だと判別できる強い個性を発揮する一方で、タイプ991と呼ばれた先代と較べると、明らかに力強い印象が高まっていると感じられた。
じつは従来の911は、後輪駆動のカレラSと4WDのカレラ4Sではリアフェンダーの張り出しの大きさが異なるボディを使い分けていたが、新型は全車44㎜広いリアフェンダーを持つワイドボディに1本化。それに合わせてフロント側ボディも45㎜拡大し、そこに新たに前20インチ、後21インチの大径、そして前後異径のタイヤ&ホイールを収めている。
これが、遠目にも明らかに塊感たっぷりと見えるプロポーションにつながっているのだ。各部のディテールもまた、マスキュリンな印象を際立たせている。たとえば、フロントバンパーの開口部はかなり大きくなり、テールランプからバンパーにかけてのラインも俄然、肉感的になった。
正直に言うと、最初に顔つきなどを見たときはもっとすっきりしているほうがいいのにとも思った。だが、じつは新型911は可変空力システムが採用されており、フロントバンパー内の開口部は速度など状況に応じてフラップを開閉させ、常に最適の冷却性と空力特性を獲得している。つまり、これもまた機能的な要求なのだと聞いたら納得するしかないし、現金なもので「さすが911」と見えてきた。
全モデルで左右のテールライトが連結され、そこに「PORSCHE」のロゴが埋め込まれたリアビュー。新規のファンにとっては新鮮な一方、古くからのファンには、左右へのテールランプ間にリフレクターを埋め込んでいた70~90年代の空冷エンジン時代の911を想起させる技ありのデザインだ。伝統をうまく再解釈することで、未来的、あるいはクールとすら見せている手腕は見事というほかない。
いよいよ室内へと乗り込み、従来よりも着座位置が低くなったドライバーズシートに陣取ると、眼前には中央の回転計だけがアナログのまま残され、その左右には7インチTFTモニターが配置されたデジタルメーターパネルが並んでいる。このモニターには通常、やはり空冷時代を彷彿とさせる5連メーターが表示されるが、必要ならば車両に関する各種情報、ナビゲーションの地図画面など、さまざまな表示に切り替えることができる。
Paragraph02 空冷時代のインテリアへのオマージュ
この5連メーター表示と水平基調のダッシュボードの造形も、空冷時代のインテリアへのオマージュ。エクステリアと同様、50年以上の歴史を持つ911には、こうした引き出しが数多あるわけだが、それを最新のテクノロジーと融合させるセンスには脱帽である。
従来ならキーを挿していたが、ステアリングコラム左側に据えつけられたノブをひねってエンジンを始動させる。車体後方から聞こえてくるのは水平対向エンジン独特のサウンド。ギアを入れアクセルペダルを踏み込んでいくと、そのエンジンが後輪をグッと蹴り出すのが背中とお尻で感じられ、これぞ911と嬉しくさせられる。
走り出すと、まずはその快適さに舌を巻いた。姿勢変化がきわめて小さく、常にフラットに保たれる一方、サスペンションはしなやかで、路面の細かな凸凹をもきれいにいなしていく。
しかも、それでいながらステアリングにしてもアクセルにしてもブレーキにしても、操作に対するクルマの反応は、明らかに軽快感を増しているのだから驚く。相反するはずの要素が、ともに見事に進化しているのである。
それを可能にした最大のポイントは、やはり構造が一新されてアルミの使用比率を大幅に引き上げた新しいボディだろう。より軽く、そして高剛性になったこのボディに、前述の通りの前後トレッドやタイヤサイズの拡大等々が相まって、快適性も俊敏性も大幅に高めることができたのだ。
しかも今回のテスト車は、車体のロールを抑制する電子制御式スタビライザーのPDCC、後輪操舵機能のリアアクスルステアリングといった電子制御デバイスを多数装着していたから、なおのことだ。
後輪駆動の911カレラSと4WDの911カレラ4Sにおいて、操縦安定性の高さでは想像通り、後者に軍配が上がる。しかし、いまや後輪駆動でもその点に不満はなく、当然ながら車体が軽くなることもあり動きは軽快さを増すから、個人的に選ぶなら911カレラSである。
サーキットでの試乗は、その911カレラSで臨んだ。ここで鮮烈だったのは、圧倒的なグリップ力や安定性のみならず、タイヤが鳴き出しあるいは軽く滑り出すような領域でも、クルマの挙動の先読みがしやすくリラックスして攻めつづけることができたことだ。ありきたりだが、まるで自分の運転スキルが上がったかのようなフットワークと評したい。
ではパワーユニットについてはどうか。先代タイプ911の後期型から、ポルシェ911カレラシリーズでは初めての過給ユニットとなる水平対向6気筒3リッターツインターボエンジンを搭載している。
新型911カレラS / カレラ4Sは、インタークーラーのレイアウト変更、燃焼効率の改善、ターボチャージャーの大容量化等々のリファインにより、最高出力を30ps増の450psに、最大トルクを30Nm増の530Nmにまで高めている。まず感心させられるのは、全域でトルクがみっちりと詰まっていること。どの速度や回転域からも、即座に欲しいだけの力が湧き出してくる。
レスポンスも軽やかで、7500rpmという高回転域に至るまで軽やかに、そして伸びやかに吹け上がるから、つい右足に力が入ってしまう。あえて言うならば、 低音寄りのやや濁ったサウンドが不満というぐらいだ。
このエンジンに組み合わされるのは、デュアルクラッチギアボックスの8速PDK。レイアウトの一新で全長は従来の7速と変わらず、また将来的には電気モーターの内蔵によるハイブリッド化も視野に入っているというこのギアボックスだが、まさに電光石火の変速、ダイレクトな駆動力の伝達で、小気味良い走りに貢献している。
なお、マニュアルギアボックスも遅れて追加される予定である。新型ポルシェ911カレラS / カレラ4Sは、電子制御デバイスの大幅な充実もセールスポイントと言っていい。衝突被害軽減ブレーキなどの運転支援装備は、多くが標準装備。
注目は新採用のポルシェ・ウェット・モードで、雨を検知するとドライバーに警告が入り、それに応じてウェット・モードをオンにすれば、可変空力システムによりダウンフォースが増やされ、アクセル応答が穏やかになる。
必要なら自動的に軽くブレーキをもかけて、破綻のない操縦性をもたらす。ゲリラ豪雨への遭遇率も低くない日本のユーザーにとっては、単なるギミックとはいえないはずだ。
まだまだ書きたいことは山ほどあるが、とにかく結論として、新型ポルシェ911カレラS / カレラ4Sの進化は想像をはるかに超えるレベルにあった。冒頭にも書いた通り、911はこの新型が7世代 目。同じコンセプトを貫きつづけてきたわけだが、それは要するに故き を学び、新しい世界を切り拓いていこうという意欲が漲っているからこそ実現できたことだ。
あくまで正常進化で、前作タイプ911が登場したときのようなコンセプトの飛躍はないが、その分、狙いは明確で、ストレートに進化、あるいは深化しているといっていい。
それができたのは開発陣、そしてポルシェという会社自体が、911がどうあるべきかをきちんと理解しているからだろう。これこそが911なのだという自信が、 そこには漂っている。まさに911にしかできないフルモデルチェンジが、見事に実現されたのである。
Porsche 911 Carrera S
メーカー希望小売価格:メーカー希望小売価格:16,660,000円~(税込)
- ※写真はオプション装着車。
- ※表示価格にはオプションは含まれておりません。
- ※価格には保険料、税金(消費税除く)、自動車リサイクル料金、その他登録等に伴う費用等は含まれておりません。
- ボディサイズ | 全長4519×全幅1852×全高1300mm
- ホイールベース | 2450mm
- エンジン | 水平対向6気筒DOHC ツインターボ
- 排気量 | 2981cc
- 最高出力 | 450ps(331kW) / 6500rpm
- 530Nm(54kgm) / 2300-5000rpm
- 0-100km / h|3.7
- Photo : Porsche Japan
- Text : Yasuhisa Shimashita
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